書評(獣医学・小動物臨床)
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2009年1月発行、B6判、264頁、定価9,240円(消費税含む)
麻布大学附属動物病院 副院長 小方宗次
このところ獣医関係書として毎日のように新たな出版物がリストに加わっている。新情報がふんだんに盛られ、いずれ劣らぬ良書であるが、類書も少なくなく時に本選びに迷う。情報氾濫が少々食傷気味となり、頭をすっきりと整理させるためのシンプルな本が欲しくなることがある。濃厚な食事の後にさっぱりとしたデザートが欲しくなるのに似ている。折も折、まさにデザート書が誕生した。小型で地味だがピリリと締まったこのてびきである。編集、執筆陣は臨床経験豊かなメンバーで申し分ない。
本書は臨床上重要な犬の疾病を臓器別に14章にふり分け、それぞれの章に代表的な病名と写真が載せてある。小型版のため掲載病名は限られているが、とり上げられたものは現在の臨床現場を反映した主要なものばかりである。文字数を絞りしかも箇条書きでまとめてあるため、すんなりと理解できる。ページ毎にかなりの空スペースがある。ここに写真を貼り付け、あるいは書き込みをすれば読者固有の実用的なてびきとなり、手放せないものとなるであろう。
てびきは古くは、袖に入るほどの小型の書物で袖(しゅう)珍(ちん)本ともいわれた。獣医袖珍本として初期に世にでたものは、東京農林学校(東京大学農学部の前身)の勝島仙之助、與倉東隆両教授によって明治21年(1889年)に刊行された『袖珍獣医宝鑑』であろう。その後、錚錚たる先生方による袖珍本やてびきが出版されていることは、昔からこの種の書物が重宝がられていることを意味している。こんにちでは“袖”でなく、白衣のポケットにすっぽり収まるコンパクトなものが臨床現場でのてびきである。てびきに望まれるのは携帯に便利で、調べたい病名を瞬時に検索でき、頻用に耐える丈夫さ、手触りのよさも軽視できない。手ごろな価格であればなおさらよい。本書はその条件をほぼ満たしているといえる。
本書は臨床現場での獣医師や、教育課程での獣医学徒に診療の閃きを身につけるのに役立つ。さらなる用途もある。「手軽に持ち歩ける実践的な小動物の病気の書物が欲しいのですが」と、大学で臨床研修している海外からの研修生によく訊かれる。本書はそれに適っている。このてきびをさっそく英訳して国際親善に貢献したいと考えている。
「獣医畜産新報」2009年5月号掲載
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2009年1月発行、B5判、535頁、定価12,600円(消費税含む)
バードクリニック金坂動物病院院長 金坂 裕
最近は鳥の臨床関係の本も数多く出版されていて、私の開業した当時の30年前とは雲泥の差である。だが多くは飼い鳥を中心とした疾病関係の本であり、人工孵化や育雛関係の本はインコ目やスズメ目と鶉鶏目以外、皆無に等しかった。そのため、春先に様々な理由で救護された雛を持ち込まれることの多い野生動物救護施設では、あまり馴染みのない種類の鳥が搬入された場合、まだ野鳥飼育が許されていた時代の古い野鳥飼育の本や、その鳥の生態や食性を参考に、手探りで育てていた。ゆえに、肝心の育雛にたどり着くまでに膨大な時間と労力を費やされることになってしまうこともあった。
今回出版されたこの本には、雛の識別に始まり、各種の雛の育て方、保護した雛鳥の基本的なケアや、救護施設への搬入方法、卵の人工孵化の方法などが記載されている。また雛を育てる時にかかりやすい疾病と対処、雛の成長率、餌や給餌方法、飼育環境等が、鳥の種類別に記載されているために、とても見やすい。特に水鳥はカモ類からサギ、カモメ、カワセミ他、その食性から生活環境まで多種多様であるため、それらの雛に対しての記載が多いことは、救護の現場の人間には大変参考になる。土地によっては搬入の頻度が低く、救護者にとって参考となる事例や経験の少ないこともあるシギやチドリ、サギ、ガンカモ類、ウミツバメ類まで詳しく書かれていることはありがたい。また、サギやツル、猛禽類に対してのパペットを用いた給餌方法も参考になる。
日本に生息していない鳥のことも書かれているが、動物園等に勤務しそれらに関わる機会のある人にとって実用的であることはもちろん、そうでなくとも鳥が好きな人なら興味深く読むことができる。インコ・オウム類のページは、飼い鳥を診療する獣医師であれば普段の診療の参考にもなろう。
また、現状では救護の当事者となった人が鳥に不慣れであることも少なくなく、この本は鳥の保護に対して技術的、あるいは情報の少なさから二の足を踏まれている獣医師等にも充分役に立つと思える。
この本が、野鳥救護に携わっている・あるいは携わりたいと考える獣医師や救護センターの方々、学生たちの座右の書となり、保護された雛を育てることの手助けになることを希望する。そして1羽でも多くの野鳥の雛が自然に帰ることを願う。
「獣医畜産新報」2009年4月号掲載
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2008年3月発行、B5判、330頁、定価19,950円(消費税含む)
明治薬科大学准教授 深瀬 徹
『Skin Diseases of Exotic Pets』(Sue Paterson編、Blackwell Science Ltd.,2006)の邦訳である。エキゾチックペットに関する成書は動物の分類のグループごとにまとめられていることが多く、こうした診療科ごとの書物はめずらしい。犬や猫と同じく、エキゾチックペットにも皮膚疾患が多発するため、このような皮膚科のみを扱った成書も有用であろう。
とはいえ、ひとくちにエキゾチックペットといっても、その範囲は広く、動物の系統分類上の位置は様々である。したがって、それらの皮膚の構造や機能も多様であり、そうした各種の動物ごとに皮膚の形態や生理を理解しない限り、皮膚疾患の診療を行うことは難しい。
本書は、全体を鳥類、爬虫類、魚類、哺乳類の4つの節に分け、各々の綱(class)ごとに“皮膚の構造と機能”、さらに“皮膚検査と診断試験”を概説したうえで、“皮膚疾患と治療”について記載している。この“皮膚疾患と治療”の部分は、鳥類は飼い鳥、猛禽類、水禽類に分け、爬虫類はヘビ、トカゲ、カメ目に分けている。また、魚類の項はとくに細分はされていないが、哺乳類に関しては代表的な種について種ごとの記述となっている。エキゾチックペットに関する現在の知見から考えて、妥当な分け方であろうと思う。
記載の内容は非常に簡潔で、診療の合い間に読むのにも適しているが、具体的な診断法に関して、たとえば細菌や真菌、外部寄生虫の同定法については述べられていない。微生物学や寄生虫学に関するある程度の基礎知識は必要である。
ところで、この書物では記載の順番が鳥類、爬虫類、魚類、哺乳類となっているが、なぜ一般的な系統分類の順に従わなかったのだろうか。また、哺乳類の項は前述のとおり、動物種ごとに分かれているが、それが原書では動物種の英名のABC順であり、訳書でもその順番を踏襲している。そのため、たとえばネズミ科の動物についてとか、近縁の動物種についての記載をまとめて読みたいときには、ページが離れていて少し煩雑かもしれない。これはもちろん、訳書に責のあることではない。ただし、ivermectinをアイバメクチンと訳している点については、イベルメクチンとすべきであったろう。
最後に、訳書がよくできていると思ったことを1つ。原書は、本文中の見出しの文字の大きさや体裁が複雑で、それらの大小の区別がつけにくく、とても読みにくい。それが邦訳では、見出しのデザインが工夫されてわかりやすくなっている。内容に関係ないといってしまえばそれまでだが、読みやすさも大切である。原書よりもわかりやすいデザインにされたことは賞賛に値する。
「獣医畜産新報」2008年9月号掲載
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岩ア利郎 監訳
『カラーアトラス 犬と猫の皮膚疾患 第2版』2007年11月発行、A4判変形、532頁、定価29,400円(消費税含む)
東京大学教授 辻本 元
本書は、日常の診療において、皮膚に異常が認められる症例を診察する際に参考となる最も優れた書籍の1つである。皮膚の異常や痒みを主訴として来院する症例ばかりではなく、他のさまざまな疾患の症例においてもしばしば皮膚の異常が認められる。いずれの場合にも、各疾患の特徴、類症鑑別、診断、治療と予後を簡潔にまとめ、ひじょうにクオリテイーの高い写真を豊富に掲載している本書は、その診療において実際的に役立つ解説書である。皮膚疾患を得意としておられる先生はもとより、少し皮膚病は苦手と考えておられる先生にも、手軽に読んでいただきたい、また見ていただきたいカラーアトラスである。私は以前から本書の原書であるMedleau & Hnilicaの『Small Animal Dermatology, A Color Atlas and Therapeutic Guide』を日常の診療の際に参照してきた。今回、その翻訳書が出版されたことにより、大変読みやすい皮膚病の書籍が手に入り、私自身も喜んでいる。
本書では、はじめに皮膚疾患の鑑別診断および診断手法が紹介され、その後に各種皮膚疾患に関する解説が簡潔かつ明解に記載されており、最後に皮膚疾患におけるスキンケアおよび治療に用いる製剤のリストが掲載されている。本書の最も大きな特徴は、各種皮膚疾患を有する症例の写真の数がきわめて多いこと、およびそれら写真が各疾患の特徴を明瞭に示している点にある。皮膚疾患はその病変を外から見ることのできる疾患であることから、このカラーアトラスを見ることにより皮膚疾患の見方を大幅にレベルアップすることができる。小動物診療を実際に行っておられる先生が1人でも多く本書を手にされることを願っている。また、皮膚科学の中で基本的に重要な疾患や臨床的に頻度の高い疾患を選ぶことにより、本書を獣医系大学における学部教育に取り入れることも可能である。
本書の翻訳には岩ア利郎先生の教室に在籍中またはその卒業生である若手獣医師の方々があたられ、岩ア先生が監訳されたことにより、和訳として妥当な疾患名や徴候名が慎重に選ばれているとともに、ひじょうに読みやすい日本語に翻訳されている。このような優れた翻訳書を出版された関係各位に敬意を表したい。
「獣医畜産新報」2008年5月号掲載
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2007年9月発行、A4判変形、816頁、定価30,450円(消費税含む)
横浜動物園ズーラシア園長 増井光子
本書の原書は1973年に米国のモーリス財団によって企画され1978年に出版された、『Zoo and Wild Animal Medicine』の第5版(原書発行は2003年)である。野生動物医学に関する関心度は、1970年あたりから次第に大きくなり、1978年に発行された初版や2版は広く格好のテキストとして受け入れられた。1980年代はこの分野が獣医学の一分野として受け入れられるための揺籃期ともいえるだろう。当初は動物園や水族館など特殊な領域の問題とみなされていた野生動物医学であるが、最近の発展ぶりは目覚ましく大学や研究機関でも裾野は広がりつつある。初版が発行されてから、はや20年が経過した。その間に野生動物医学に関する知見は著しく増大し、研究者の数も増加した。改めて第5版が刊行されたのも、宜なるかなである。
本書と2版とを比べてみると、大きく異なるのは魚病学が取り入れられていることである。熱帯魚や鯉、金魚などの観賞魚の愛好家も多く、また水族館でも大型魚類の疾病に対して、陸棲動物同様な処置や気配りがなされるようになってきている現在、この項目は非常に役立つであろう。
また両生は虫類の項も以前よりずっと充実した。とくに両生類は、棲息環境の悪化や新たな感染症による絶滅の脅威に晒されており、世界的にその保全に関心が高まっているおりから、この項の充実は有り難い。
鳥類、哺乳類の項では動物分類学に沿って記載されているが、前回では大きくグループ的に括られていたものが、5版ではより細かく各目別に章だてされ、それぞれに生物学的、解剖学的特徴や保定法や飼育環境条件などが記載されている。分類は研究者により多少の変動が認められるが、鳥類は非常に種類数の多い動物群で、その目は28目におよび、種類も8800種以上を数えるので、合併された目はあるものの、概ね目別の記述は使い勝手がよい。哺乳類の項も同様である。全項にわたり疾病の記載のみでなく、その動物群の飼育管理上の特性や注意事項にも触れられているのは、疾病予防上も有意義である。事例の少ない種類では飼育失宜からくる疾患も多々あるからである。
野生動物を十分に理解し正しく取り扱うために、本書は臨床医のみならず、あらゆる分野の野生動物に関心をもつ人にとっての優れた参考書となりうるものであろう。最後に題名が2版の翻訳の『野生動物の獣医学』から今回『野生動物医学』へと替わったのも、かっての家畜が主体であった獣医学から広く動物一般へとの想いが籠められているようで、時代の流れを感じさせる。
「獣医畜産新報」2008年3月号掲載
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2007年9月発行、A4判変形、ソフトカバー・240頁、定価12,600円(消費税含む)
麻布大学准教授 武藤 眞
良い本が出た。最近、小動物関係では診断と治療に関する本が数多く出版されているが、保定に関する本は久しくなかった。獣医療が細分化すると最先端技術の本は書く人がいても、基本的な技術の本はなかなか書く人がいないということだろうか。小動物臨床であれ大動物臨床であれ、診療に絶対必要なものは保定である。学生時代、採血時に「保定7割、採血3割」と先輩にいわれて文字通り殴られながら犬の保定を勉強したことを思い出す。訳者の武部先生は、保定を松葉重雄著『獣医外科手術学』(第9版、金原出版、1957)で勉強したそうであるが、実は1982年に北 昂監訳『動物の保定と取扱い』(文永堂出版)が出版された。馬牛から犬猫、実験動物さらには野生動物まで網羅されていた。北先生は麻布大学外科の恩師であり、下訳や浄書に携わった記憶がある。ただし四半世紀以上も昔の本で図版は少なく写真は勿論白黒である。文章が多く「硬かった」ため、読みやすいとは言えなかった。
今回の『獣医療における動物の保定』は図版が多く、しかもカラー写真で非常に読みやすい。内容は保定の原則、結節の結び方から入り、犬、猫、牛、馬、羊、山羊、豚、齧歯類・ウサギおよびフェレットそして鳥類の保定法と続く。とくに保定の原則では、人と動物の安全への配慮についても記されている。これは将に保定の原則であり、また目的でもある。さらに「重要な保定“道具”は声である」とあるのは、痛みと不安を抱えた患者に接するときの心構えとして至言であろう。
武部先生はすでに沢山の訳書を出版されていらっしゃるが、翻訳には実に真摯でいらっしゃる。内容に不明の点があれば、私のような後輩にも質問される。本書を訳すため縄結びの本を5冊も買われたという。こうした点が本書をさらに読みやすくしていると思われる。
小動物あるいは大動物臨床に携わる若い獣医師や動物看護士は勿論、獣医療を志す学生諸君にぜひ座右の書にしていただきたいと思う。
「獣医畜産新報」2008年2月号掲載
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2007年・日本獣医史学会 刊、定価3,150円(消費税含む)
日本獣医史学会理事長 深谷謙二
本書はかねてから刊行が待たれていた日本の獣医学関係の故人の初めての人名事典であり、個人情報保護法などの関係もあって、このような人名事典を作ることがきわめて困難な現状を考えると、日本獣医史学会ならではの刊行物であり、きわめて貴重なものであるといえよう。獣医学に携わる方々にはぜひ一読をお奨めしたい。
獣医学を学ぶうえで、その歩んできた歴史を知ることが現在につながり、そして将来の発展へと続いていくのであり、獣医学史を研究するにあたって人物伝の持つ意義がきわめて大きいことはいうまでもない。私が東大の獣医学科を卒業してから来春で60年になるが、大学で教えを受けた先生方はすべて他界されている。近代獣医学の発展に尽力された諸先輩の業績も、その多くが残念ながら年とともに忘れられていくのが自然の成り行きであり、活字にして残しておくことが望まれていた。
10年ほど前に、世界獣医史学会で“世界獣医学人名事典”の刊行が企図され、メンバーの一員である日本獣医史学会もその重要性を認識して全面的に協力することとし、故勝山脩常務理事を中心に日本人の原稿作成にあたり、約50名分の原稿を世界獣医史学会の事務局に届けたがなかなか進捗せず、とりあえず当学会の創立30周年にあたって5年前に“日本の獣医学の発展に尽くした人々”という小冊子を作成したが、58名について掲載するにとどまり、より完成度の高い人名事典を刊行して欲しいとの要望がきわめて強かった。本学会は本年創立35周年を迎えるにあたって、記念事業として“日本獣医学人名事典”の発行を企図し、藤原弘常務理事を委員長とする編纂委員会を発足させたが、予期せぬ幾多の困難に遭遇しながら、それを乗り越えてようやく発刊するに至った。
内容としては旧版の58名に新しく129名を加え、計187名を掲載することができた。原則として各人の生没年・学歴・経歴・業績の順に記すことにしたが、執筆者も90名と多く、1冊の本としてある程度の統一性をはかる必要から、執筆者にはご不満もあろうかと思うが、かなり手を加えさせていただいた。
当初は300名掲載を目標とし、掲載する方に洩れのないように多数の方のご意見をうかがい、執筆候補者を選んで執筆を依頼したが、資料の不足や健康上の理由などで執筆辞退が相当数あってなかなか思うにまかせず、107名の方についてはやむを得ず姓名と簡単な経歴のみを巻末にまとめて掲載するにとどめざるを得なかった。これらについては、将来さらに充実をはかってより完全なものとしたいので、多少にかかわらず情報をお持ちの方はぜひ当学会事務局宛(〒229-8501 相模原市淵野辺1-17-71麻布大学獣医学部附属動物病院)にご連絡いただきたい。
お問合せ・ご注文は文永堂出版鰍ワで
「獣医畜産新報」2008年1月号掲載
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2007年9月発行、A4判変形、ソフトカバー・246頁、定価9,450円(消費税含む)
フジタ動物病院院長 藤田桂一
本書は、もともと獣医臨床の基礎となる教科書として執筆されたものであり、イギリスの全英統一試験で生物学を学習し、動物科学の分野で国家試験や学位取得を目指している学生を対象に書かれた本である。本書は獣医看護学を学ぶ学生ばかりでなく、獣医学コースの初年度の学生に対して解剖学や生理学の知識を向上するために薦められている。著者 Dr. Victoria Aspinallは、Hartpury Collegeの動物医療および獣医看護学科の主任を勤める傍ら、Abbeydale Veterinary Training教室を開催しており、動物看護学に関する著書も多数ある。また、共著者Dr. Melanie O’Reilly は、Royal Veterinary Collegeで獣医看護学の解剖学と生理学の講義を担当している。監訳者は麻布大学の解剖学第1講座の浅利昌男先生であり、適切で簡潔な文章で解説されている。
欧米では、以前から動物看護師の役割は大きく、日常診療において各動物病院では動物看護師は欠かせない存在となっている。一方、わが国でも20年ほど前までは各動物病院の獣医師の奥様方がその一端を担ってきたが、次第に動物看護師を雇用する病院が増加し、今やほとんどの動物病院が動物看護師を雇用している状況である。周知のようにわが国では動物看護師の国家資格はいまだに未整備であるが、日々の業務は多岐にわたり、動物看護師なくして動物病院の業務は回らないといっても過言ではない。1日の動物看護師の業務は、受付、清掃、電話での応対、洗濯、在庫管理、顧客管理、動物の保定、入院動物の看護・配膳、臨床検査、および手術準備・管理など多岐にわたる。その中で、動物看護師は、日常診療業務の補助を単に機械的に行っているだけでは日常業務に支障をきたすことは明らかである。したがって、少なくとも基本的な獣医学的知識を習得して動物看護師としての日常業務を果たすことが望まれている。
現在、獣医学書と比較して日本語に訳された動物看護学の著書は多くない。その中で本書は、動物の生体における解剖学的および生理学的知識を会得するには適切な書物といえる。とても見やすく、イラストもきれいで豊富に掲載され、重要な解剖学用語は太字で示されているので初学者においても非常に理解しやすい構成になっている。さらに、本書は犬と猫ばかりでなく、鳥類、その他の哺乳類(ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、スナネズミ、シマリス、モルモット、チンチラ、フェレット)、爬虫類や魚類に関しても基本的で重要な事項が簡潔に記載されている。
前述のように本書は獣医看護学生や獣医学教育課程の学生、あるいは生物学・動物学を学ぶ学生を対象に書かれた書物ではあるが、日常診療に携わっている動物看護師はもちろんのこと、私たち臨床獣医師にとって日々の診察や手術の際に忘れがちな解剖・生理学的知識を再確認する意味でも利用価値は高いといえる。
「獣医畜産新報」2007年11月号掲載
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2007年7月発行、A5判、ソフトカバー・267頁、定価5,040円(消費税含む)
東京大学教授 佐々木伸雄
本書は、新しく獣医学を学ぶ学生のために編集されたものであり、その意図するところは、単に獣医学の各分野の教員がそれぞれの分野を概説する、ということではなく、獣医療の歴史あるいは生命倫理等も含めて包括的に概説したものである。
第1章は序論であり、獣医学の活動分野をまとめ、さらに獣医学教育の変遷、現在の各獣医学分野の状況をまとめている。第2章以降は、この序論に沿った形で編成されており、まず獣医学の歴史が古代にさかのぼって記述されている。この部分は、評者を含め、おそらく獣医学関連者もあまり知らない内容であり、獣医学のルーツの変遷がわかって興味深い。
第3章から第5章は、獣医学に関わる生命倫理的側面から、獣医療、動物実験、ならびに動物の福祉に関して記載されている。その中には、生命倫理の考え方や法律論が含まれており、従来、日本ではきちんと教育されてこなかった項目であり、獣医師を志す学生にとってきわめて重要な内容であろう。ただし、これらの中で、クローン動物、動物介在療法、異種移植などの分野は、今後の獣医療/獣医学の展開の項目で論じた方がより焦点が絞られたように感じられた。
第6章以降では、まず国民にとってもっとも重要な公衆衛生学の諸問題が説明されており、また、獣医師の各職域や国際的な活動が述べられ、そこでは、獣医師としての活動に関する法律論も概説されている。次に、獣医療の展開の章の中で、高度獣医療として小動物の臨床面が述べられている。この分野は最近の伸展の著しいこともあって、その概略が述べられているのみであるが、公衆衛生関連の記載に比較すると、現在の状況や諸問題をもう少し加えても良かったかもしれない。最後に、獣医療に欠かせない動物看護士、あるいは獣医療の経営の実際に触れている。
以上、本書は獣医学という多岐に亘る分野を概説したものであり、またそれらに関わる法律や倫理に関して多くを割いており、獣医学を初めて習う学生にとって獣医学を全般的に理解するのに役立つ本と思われる。本書の内容として、医学分野との連携、研究面での貢献、野生動物を含めた環境保護に関わる今後の発展など、もう少し踏み込んでもよいのではないか、と思われる部分もあるが、しかし、それらを全て包含すると本書は大冊となってしまい、目的からそれてしまうのかもしれない。したがって、本書を参考にし、その上で、教員がそれぞれ考える部分を増やして講義をすると、きっと良い獣医学概論になるのではないかと思われる。
「獣医畜産新報」2007年9月号掲載
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2007年3月発行、A4判、ソフトカバー・309頁、定価5,460円(消費税含む)
岡山大学教授 奥田 潔
本書は、5年前に出版された初版の改訂版である。本改訂版においては、各章に最新の技術や知見に対応した説明や写真が加えられている。中でも牛の人工授精の精液注入の手技に関して、多くの写真を用いて詳しく解説されており、また牛のボディコンディッションスコアの評価法についてより実践的な解説が加えられ、初版よりも理解しやすくなっている。
長い間、獣医繁殖学の実習は各大学の有する地域性、歴史などを背景とした得意分野を中心に教育されてきたが、獣医学教育のさらなる高度化を実践する上で、大学間に偏りのない高度教育の指針となるテキストが望まれていた。そうした中、獣医学教育に携わる全国16大学の獣医繁殖学教育協議会メンバーを中心にすべての動物種を網羅する『獣医繁殖学マニュアル』が5年前に出版され、すべての大学において臨床(獣医)繁殖学実習の教科書として用いられてきた。本書は、牛、馬、豚、ならびに犬・猫という動物種で4章に分け、それぞれの動物種における「生殖器の構造(解剖)と生理」「雌の繁殖機能検査技術」「発情診断」「雄の性行動、精液採取、精液検査、人工授精」「胚移植、体外受精を含む生殖制御技術」「妊娠診断」「雌の繁殖障害の診断と治療法」「雄の繁殖障害」「周産期異常」さらには牛では「乳房炎」ついてコンパクトに解説されており、獣医学を学ぶ学生はもとより、獣医繁殖学を教育する教員、さらには専門分野で活躍する獣医師の技術の確認あるいは再教育用のテキストとして初版から広く用いられてきた。言うまでもなく、臨床技術は基礎となる解剖、生理、病理、薬理、微生物などの知識の上に成り立っているが、こうした臨床技術の背景となる詳細は教科書に譲ってはいるものの(姉妹書として「獣医繁殖学」が出版されている)、本書でも必要な基礎的情報はしっかりと解説されている。また、本書は「獣医繁殖学の技術マニュアル」として、多くの図表と写真を用いることによって具体的な知識や技術面でのノウハウを伝えることに成功している。
本書が、獣医学を学ぶ学生だけでなく、獣医臨床を教育する教員、さらには専門分野で活躍する獣医師自らの技術を確認するためにも手元に置いておきたい1冊であることは疑いない。
「獣医畜産新報」2007年6月号掲載
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2007年2月発行、B5判312頁、定価15,750円(消費税含む)
赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫
1990年初版発行、1998年第5刷改訂版発行の『獣医病理組織カラーアトラス』の新版が『動物病理カラーアトラス』と名を変えて、また体裁もペーパーバックとなり新たに刊行された。
今回の 編集方針として記載されているように、前書の記載の症例を残し新たな 症例を追加する形で、増補版として刊行されている。
内容では、伴侶動物に関する記述が増え、長寿化に伴う腫瘍や生活習慣病などが多く追加されている。また、産業動物では、新興感染症など、海外から入ってくる疾患に関する記述も増えている。そして、前書では「病理組織」としての集大成であったものが、今回はマクロの写真も追加されている。
全般に写真のクオリティーは高く、写真も大きく見やすいのが特徴である。1つの病名につき半ページないし1ページをさき、記述はコンパクトにまとめられているが、病名1つに対して写真1枚ないし2枚ですべてを説明するのは相当の苦労があったと思われる。その上に肉眼写真も追加されているため、組織写真が若干圧迫されている感があるが、ほとんどすべての病名につき網羅されている点については敬服する。
これだけの症例を個人で収集することは不可能に近いため、全国獣医大学の病理学の教員を中心に、多くの執筆者の協力で本書は完成している。本来の目的は、組織検査に従事する人達のため、あるいは大学教育での病理組織学実習のための参考書であるが、動物の病気ほとんどすべてを網羅する本書を臨床医が手元においても、十分参考となるに違いない。全ページにわたるカラー画像により、決して退屈な本とはならないだろう。学生向けを考慮して、価格も最低限に抑えられている。
「獣医畜産新報」2007年5月号掲載
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2007年1月発行、B5判592頁、定価15,750円(消費税含む)
株式会社VR ENGINE代表、社団法人大阪市獣医師会副会長 細井戸大成
私がクリティカルケアに興味を持ったきっかけは、私が研修させていただいた藤井寺動物病院の院長であった是枝哲世先生の「24時間クリティカルケアに対応できる動物病院をつくりたい」という一言であった。
そして、藤井寺動物病院退職後、1990年頃にテキサス州のサンアントニオで2年に一度開催されていた全米のクリティカルケアに関わる多くの専門医や関係者が集う学会に参加し、その後も何度か参加するうちに、より興味を持つようになった。
また、仲間の獣医師たちとネオ・ベッツを設立し、1989年9月に夜間救急動物病院を、2005年10月にはVRセンターとERセンターを開院し、欧米のエビデンスに裏付けられた獣医学を尊重しつつ、日本の文化に則した、地域に根付いた夜間診療・二次診療システムの構築に取り組んできた。
その20年間で、ペット(家庭動物)の社会的な役割が大きく変わり、それに伴う家庭動物医療に対する要望が高度化かつ多様化し、よりよい動物医療の提供が不可欠になってきた。その中でも救急疾患への対応は、最も重要なものと考えられる。
しかし、どんなに経験を積んでいても、いざ緊急時に的確な対応ができないことがある。そのようなことを防ぐためにも、この度、小村吉幸先生・滝口満喜先生の監訳で出版された本書は、広範囲にわたる緊急救命医療についてそのアプローチから治療そしてアフターケアに至るまでが分かりやすく解説されており、大いに役立つものと思われる。さまざまな緊急時において、より適切な対応ができるように普段からこのマニュアルを熟読しておくことをお勧めする。
そして、人と動物とのすばらしい共生社会の実現に向けて頑張っていこう。
「獣医畜産新報」2007年4月号掲載
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2006年10月発行、B5判560頁、定価10,500円(消費税含む)
東京大学教授 佐々木伸雄
『獣医繁殖学』は、初版から教科書あるいは臨床家の成書として幅広く用いられてきた。今回は、2001年の第2版に比較して、この分野の研究の進展をもとにかなり新しい内容が書き加えられている。
まず、大きく変わった点は、図表が大きくなり、かつその中の字や本文の字も大きくなって読みやすくなったことである。一方、目次を見ると大きな変化がないように感じられるが、実際には各項目とも、最新知見が加えられている。文献として2006年のものも用いられており、最新の情報を取り入れてあることがわかる。
もっとも大きく変わった点は、生殖工学の項目であろう。この分野は確かに研究の進展が早く、情報は日々更新されている。それぞれの項目で変更があるが、特に排卵の同期化、胚移植、胚の凍結保存などで新しい記載がなされている。また、従来の牛に関する記載に加えて、他の動物種に関してもより多く記載されている。
同様に、その他の各項目においても、犬、猫などの小動物に関する記載が、カラー口絵も含めて著しく増強されている。従来の獣医繁殖学は、戦後の畜産振興における産業動物の増産がその背景であったために、主として産業動物が対象であった。しかし現在では、国民の5人に1人が犬または猫を飼う時代になり、これらの動物の繁殖に関する情報が社会から求められており、それを反映したものと思われる。さらに、野生動物に関しても、種の保存という観点から記載が加えられており、新たに「動物園における繁殖技術」の項目を起こし、そこで行われている繁殖情報を載せている。
このような内容の改定は、特に小動物分野に進む学生、野生動物を勉強したい学生にとって有意義であり、獣医繁殖学の視点を広げることにおおいに役立つものと思われる。3人の編集者に敬意を表したい。
「獣医畜産新報」2007年2月号掲載
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2006年6月発行、A4変形判264頁、定価18,900円(消費税含む)
麻布大学獣医学部助教授 印牧信行
獣医眼科臨床はこの数年、目覚しい進歩を遂げている。今や眼科関連の講習会、研究会などが頻繁に開催されている。一方、この数年は眼科学の学術的な基盤が定着してきた時期でもある。多くの優れた獣医眼科学の成書やアトラスが発刊されている時期であり、私達は眼科疾患に対するより多くの情報を得ることができるようになった。今回、斎藤陽彦先生が監訳された『カラーアトラス・犬と猫の眼科学』も優れたアトラスの1つとして位置づけられる。
本書の特徴は、「眼の外観異常をどのように見いだすのか」といった臨床技術を自学自習できるアトラスである。数多くの外貌写真が眼瞼、結膜、瞬膜、涙器、角膜、強膜、ぶどう膜、水晶体、緑内障の一部、硝子体および眼窩の疾患について掲載され、また各写真に添えられたコメントも簡潔かつ分かりやすい内容である。外観異常は観察像の異常として、さらに隅角鏡検査像を掲載した緑内障と、豊富なボリュームの眼底像を掲載した網膜・脈絡膜・強膜および視神経の疾患と緑内障および眼窩の疾患にみることができる。これらの観察像も外貌写真と同様、丁寧で、かつ分かりやすいものである。また各章のイントロダクションは掲載写真を理解する必要最小限の知識が記述され、その丁寧さはDziezyc、Millichamp両先生のお人柄を窺い知るものである。
手に入れておきたいアトラスの1つである。ご一読の程を。
「獣医畜産新報」2006年12月号掲載
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2006年5月発行、A4変形判651頁、定価26,2570円(消費税含む)
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 小野寺 節
小生は、農学部の学生時代は、家畜病理学教室に属して居た。当時、全国の獣医科大学で、年1回、東京の学会の際に病理研修会が行われていた。現在はこれをスライドショーと名称変更された様であるが、同じ組織から、新しい美しい切片を40枚作製しなければならず、この仕事が秋からの病理学助手の大仕事であった。また、米国のNIHに職を得た時、すぐ近くにAFIP(Armed Force Institute of Pathology、陸軍病理研究所)が存在していた。ここでは、各病気のまれな症例の博物館が存在し、その維持管理に莫大な国家予算が費やされていた。時折、日本からの留学生が、この施設に参加し、診断の研修を受けていた。
現在、獣医科大学も医学並みに専門が分化しつつあり、我々としてもまれにしか見ることのできない疾病については、一生経験せずに、キャリアを終えてしまう。まして、大学の先生において、自分が経験したことの無い病気を学生に、講義、教育する機会は、これからますます増えてくるものと思われる。これらのまれな病気、あるいはこれから増えつつある病気の診断教育には、本来莫大な国家予算の必要とする所であるが、その議論は別の機会に行うこととして、書評について述べさせていただく。
本書は、1999年に発行された本の第2版である。1999年にくらべ、国内外で新興・再興感染症の発生も続発したことから、その内容の改訂は切に求められていた。また、食肉処理場において、肉眼診断は、極めて重要であり、その方面の診断マニュアルの充実はますます必要とされていた。その中で、112名の執筆者による、大部の新書をまとめられたことは、正に敬意を表する以外に無い。これらの内容をまとめられた出版者、編集委員、監修者の労力も莫大なものであったことは想像に難くない。
本文については、カラーアトラスの名が示すように、頁の50%近くが図、または表に費やされている。その結果、これらの図表の提供者を尊重し、現役の研究者あるいは、専門家がそのまま執筆している。現場の第一線で仕事をしている獣医師の生の声が反映されている様で、学生の教育には極めて適切と思われる。
当教室で、この書評を書いている最中も、若い獣医師から早く内容を見たいとの要望が多く寄せられた。教科書、参考書にお勧めできる1冊である。
「獣医畜産新報」2006年7月号掲載
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2006年4月発行、B5判284頁、定価9,870円(消費税含む)
日本大学生物資源科学部教授 長谷川篤彦
誰の言葉か、何時頃のことか失念したが、次のような内容のことを聞いたことがある。経験に乏しい医師は疾患それぞれの1症例を治療するのに20種以上もの薬剤を使用するが、経験の豊かな医師は1薬剤を20以上の疾患に使用することができると言うのである。日常の診療においては、多数の疾患単位を診断でき、また多数の薬剤を駆使できると考えている。いや、そう思いたいのかも知れない。自分が本当に熟知し、使用できる薬剤が何種類あるのか自問自答して、その都度愕然とする。
小動物臨床に携わる獣医師は動物薬として承認や認可されていない薬剤を多く使用しているのが実状である。したがって十分な知識に基づいて、飼い主と良く話し合って了解を得て加療しなくてはならない。薬剤を使用して、不幸にして有害反応が発現した場合には、情報源が仮に誤っていても、例えば参考にした書物の記載が誤植などで違っていても、治療した獣医師の責任となる。動物で認可されていない人体薬を使用している場合には製薬会社に否のないことは当然である。
最近になって動物で使用される薬剤一覧が欧米の書物に付録として表示されたり、処方集などの単行本が発刊されるようになっている。しかし、我が国の現状に適したものがなく、切望されていた。この度桃井康行先生(東京農工大学助教授)がこれまでの臨床経験を踏まえて常用されている治療薬ついて纏められたのがここに紹介する一書である。各種薬剤の用量用法、副作用は勿論のこと、備考コメント欄には対象病態や注意事項などが記載されている。すべてが表に纏められており簡便に参照することができる。日本語と英語の索引が末尾にあり、これも実際の活用に便である。したがって診療室に是非常備して置き汎用していただきたいものである。
「獣医畜産新報」2006年5月号掲載
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2006年3月発行、B5判267頁、定価7,140円(消費税含む)
日本大学生物資源科学部教授 村田浩一
約30年前、私が動物園で働き始めた当時、あまりにも多様な野生動物治療に毎日悩み途方にくれていた。その当時は、今以上に野生動物医学への関心は低く、当然のごとく大学では野生動物臨床の教育がなかった。病気の野生動物を前にしても、手元には大学で使った家畜中心の獣医学書と講義ノートしかない!
おそらく、本書の編集者である森田正治さんも、野生動物臨床を始めた当初は、同じ悩みを抱かれたに違いない。だが私と違うところは、同じ状況に遭遇するであろう後輩たちに、同じ苦労を味わうことのないよう本書を出版されたことである。
本書は、野生動物救護の初心者にとって、大いに参考となる。具体的な治療法や手術法を知るためのマニュアルとしても利用できる。本書は、単なる事例解説書ではなく、著者らの貴重な経験が提供されている。各項目で豊富に挿入されている写真や図表が、そのことを十分に証明している。読者は、著者らが味わった苦労や悩みを、この1冊を読むことで容易に乗り越えられるに違いない。
本書の特徴のひとつは、森田さんらが活動している根拠地=北海道の地域性が反映され、当地固有の野生動物や感染症例が取り上げられている点である。本州以南で救護活動を行う場合には、アザラシの救護やエキノコックス症の情報など必要ないと思われる読者がいるかもしれない。しかし、タマちゃんやカモちゃんの例を挙げるまでもなく、野生動物の行動は予測し難く、救護の機会が皆無であるとは言い切れない。また、交通機関の発達や環境変化などにより、これまでその地に存在しなかった病原体が侵入してくる可能性は低くない。そういう意味で、野生動物臨床を目指す者には、国内外にアンテナを張り巡らせ、できるだけ多くの知識と情報を蓄えておくよう心がけて欲しい。
本書でとくに注目されるのは、野生動物救護における新たな概念に配慮している点である。たとえば、「トリアージ(triage)」で、これは欧米の野生動物リハビリセンターで、近年広く採用されている基準である。国内では、阪神・淡路大震災の時の被災者救助で知られるようになった。今後の野生動物救護では、施設収容能力や予算の問題から、助けるべき動物の科学的選別が求められるようになるであろう。さらに、人獣共通感染症についても言及されている。治療によって病原体保有者となった動物の放鳥獣や抗生剤投与による薬剤耐性株拡散への再検討が、これからは厳しく求められるようになると考える。
先に、傷病救護の初心者にとっては有用な参考書になると述べたが、欲を言えば更に専門的で詳細な記載内容が望まれる。たとえば、保護機会の多いスズメやツバメのような小鳥に対する成長段階毎の飼料の記載、また対象動物の血液・尿検査値や体重などの参考値がより多く掲載されていれば、臨床現場では一層有用となるであろう。今後本著を改訂される時にはぜひ検討していただきたい。
「獣医畜産新報」2006年5月号掲載
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鎌田信一、押田敏雄、酒井健夫、局 博一、永幡 肇 編
『獣医衛生学』2005年4月発行、B5判387頁、定価8,400円(消費税含む)
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所所長 谷口稔明
家畜や家きんなどの産業動物の生産現場で、留意すべきことは産業動物の生産性を脅かす病気の発生である。家畜・家きんの病気には、ウイルス、細菌、寄生虫などの感染性の原因によるものから飼料に起因するものなど多くの原因が知られている。ここ数年の間では、2000年にはわが国に97年ぶりに口蹄疫が発生し、2001年にわが国で初めて牛海綿状脳症(BSE)が発生した。さらに2004年1月に79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザが、また3月に未承認ワクチンに起因する豚コレラを疑う症例が発生している。とりわけ、BSEや高病原性鳥インフルエンザの発生を契機に、国民の畜産物の安全性、さらには食の安全・安心への関心が高まっている。上述したような病気の他にも家畜・家きんのみならず、人にも影響を及ぼす病原体や有毒物質が多く知られているため、家畜の命を守り、健康な家畜を育成することが、ますます重要かつ不可欠となっている。
一方、近年、家畜の生産能力は著しく向上し、また飼育規模の拡大などの飼育形態も著しい変化を遂げている。さらに、HACCPの考え方に基づく衛生管理、動物福祉に重点を置いた家畜の取り扱い、家畜伝染病の発生予防のための飼養衛生管理基準を遵守した飼養管理などの生産現場での取り組みが求められている。
したがって、家畜を健康に育て、病気から守るためには、それぞれの生産現場における対象とする産業動物の病気の知識のみならず家畜の生理、適切な飼養管理、飼養環境、畜産経営の隘路となりがちな家畜排泄物処理などについての理解も深める必要がある。
本書では、近年高まっている動物福祉から家畜・家きんの環境と衛生、疾病の予防と対策、管理衛生、飼養衛生さらには、家畜糞尿などの畜産環境対策にまで及ぶ広範な項目が盛り込まれている。それぞれの項目における内容は必要とするものが最新の情報や手法を基に簡潔に取りまとめられている。とりわけ、わが国において今後の取り組みが期待される疫学手法や予防対策に関する記述は、丁寧で充実している。さらに、実践性を重視して企画されたものだけに、感染症などの予防対策、生産段階における総合的衛生管理、畜産環境などの記載内容は、実際の生産現場でいますぐに実践できるものである。さらに、関係する法規や対策なども簡潔に紹介されており、理解しやすい。
本書には、家畜衛生を理解するためには大変有益な内容が1冊にまとめられているため、家畜衛生を学ぶ学生の教科書としてのみならず、現場での家畜衛生の指導に臨む技術者の参考書として活用するにふさわしい書物である。
「獣医畜産新報」2005年7月号掲載
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2004年9月発行、B5判426頁、定価25,200円(消費税含む)
トライアングル動物病院院長 斎藤陽彦
監訳者の太田充治先生はお会いするたびに「先生、何年生まれ?」と質問してしまうほど、童顔であるばかりでなく真に若々しいエネルギーを感じるお人柄である。実際私より10歳近くお若いのだが、 2001年に発刊された原著の翻訳を短期間にまとめ上げたバイタリティーには敬服する。
さて、この『獣医眼科アトラス』は原著者のK. N. Gelattが序文で述べているように、『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』、『Essentials of Veterinary Ophthalmology』に続くシリーズとして、両書の読者からの要望によって発刊されている。私自身の経験においても、始めに『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』、そして『Essentials of Veterinary Ophthalmology』、最後にこの『Color Atlas of Veterinary Ophthalmology』に出会っている。そういった観点では、この『Color Atlas of Veterinary Ophthalmology』は前2著があってこそ価値のある書と評価せざるを得ない面を持っている。一方、我が国ではこの『獣医眼科アトラス』が今般文永堂出版鰍ゥら発刊され、『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』や『Essentials of Veterinary Ophthalmology』を知ることなく本書を利用される先生も多いことと思う。では、「『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』や『Essentials of Veterinary Ophthalmology』無くして本書の価値は下がるものか?」の問いには、即座に“いいえ”と答えざるを得ない。なぜなら、本書は3つの大きな特徴を備えているからである。その1つは分かりやすい大判の症例写真と必要にして最小限の解説、そして2つ目には各疾患について病歴、臨床症状、鑑別診断、治療法が簡潔に整理されて下段に記載されているところである(さらに、詳しい情報を要求する読者には『Veterinary Ophthalmology 3rd. ed.』や『Essentials of Veterinary Ophthalmology』の参照頁も記載されている)。まさに、監訳者序文で述べられているとおり、眼科診療を専門的に行っていない診療施設においても、症例とアトラスを照らし合わせ、同時に疾患の概要をレビューするにうってつけの書である。幸い本書は、原著に比べ紙質も製本も良質で、臨床家のタフな使用に耐えうる点も喜ばしい限りである。そして、3番目の特徴は80数頁にわたり馬の眼科学、食用動物、そしてエキゾチックアニマルの眼科疾患が掲載されていることである。私自身、診療対象でない動物種の眼科疾患に触れ、教養としての獣医眼科学を楽しんでいる。最後に各章ともに丁寧に翻訳されている訳者の先生方に敬意を表したい。
「獣医畜産新報」2004年11月号掲載
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望月雅美 著
『ウイルスハンティング ペットを襲うキラーウイルスを追え!』2004年7月発行、A5判207頁、定価3,990円(消費税含む)
赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫
尊敬する友人で、ウイルス学が専門の望月雅美博士(通称:もっちゃん)がこのほど文永堂出版から「読み物」的な本を出版しました。もっちゃんは、いつもははにかみやで、あまり本音を言わないのですが、この本には本音が書かれていると、直感しました。本文を読んで、さて書評を書こうとまえがきを読むと、書こうと思っていたことがすべてそこに本人の言葉で書かれていたのには驚きましたが、この本を読んだ人には、本人の研究への姿勢や出版に対する意図が、きちんと伝わるということだと思います。
この本の内容は動物のウイルスを中心としたトリビア的なもので、本人曰く、「大学の授業の途中の雑談」だそうです。しかもそのすべてが、これまでに論文発表されたエビデンスによりサポートされていることは特筆に値するものです。こう書くと、重箱の隅をつっつくようなとるに足らない事実と誤解されるかも知れませんが、ここに著者の社会に対する熱い思い入れが存在するのです。もっちゃんは自分自身を、「獣医臨床ウイルス学」の専門と言っていますが、ここがキーポイントです。すなわち、医学とは、獣医学とは、何のために存在するのか、それをわかって研究を続け、論文を書き、このような本にまとめる著者だからこそ、読者は興味を持って読めるし、読んでためになる本が出版できたのだと思います。学問は自分のためではない、社会に還元してはじめて価値があるものだということを、この本を通じて著者は語りかけてくれます。
内容では教科書的なウイルスの説明は一切なく、ワクチンの話などのウイルスとの戦いについて、そして犬と猫の代表的なウイルス、狂犬病、ジステンパー、パルボウイルス、肝炎ウイルス、コロナウイルス、レトロウイルスなどにまつわる多種多様な話題がとりあげられています。さらにエマージング感染症やプリオン病、トロウイルスなどという聞いたこともないウイルス、それからイリオモテヤマネコやツシマヤマネコにまつわる話題もあります。コンピュータウイルスについての記述もご愛敬でのっています。
この本は犬と猫の臨床医を対象に書かれているため、どこを読んでも興味がわくと思います。1つの項目が1ページ程度にまとめられているので、読みやすく、どこから読んでも大丈夫です。失礼ながら、飲んだときに相当にかしこい話をして尊敬を集めるためのタネ本としても最適だと思いました。
「獣医畜産新報」2004年9月号掲載
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2004年5月発行、B5判392頁、定価24,150円(消費税含む)
米国獣医内科学専門医(腫瘍学)、日本獣医畜産大学非常勤講師、小林犬猫病院 小林哲也
本書を初めて手にとって眺めてみた時“きれいな写真が沢山載っている!”と素直に感じた。392ページがフルカラーで、カラー写真が800点以上も掲載されている。
細胞診を学び始めた学生あるいは臨床獣医師が、診断に結びつくようなヒントを得ようと必死に参考書をめくる時、実際に彼らが行っている作業は“絵合わせ的なパターン認識”であることが多い。目前の症例に類似した形態を呈す写真を本から探し出そうとしているのである。つまり、本の掲載写真が多ければ多いほど、目前の症例とマッチする確率も上がるはずである。そして、ある程度系統立てた見方が可能になると、典型的な写真ばかり紹介されている本では少し物足りなくなってくる。実際の臨床現場では、誰もが躊躇なく診断可能な典型例に遭遇することはむしろまれで、顕微鏡を見ながら頭をひねり続けることの方が多い。その様な症例に対し、細胞診の熟練者は“なるほど”と思える合理的な理論を展開するのであるが、この“なるほど”と納得できる程のきめ細やかな説明を従来の参考書に見いだすことは難しかった。本書は写真掲載点数の多さもさることながら、本文および各写真に対する事細かな説明文、そして細胞診と病理組織標本との対比によって非常に理解しやすく要点がまとめられている。また、例えばリンパ腫であれば典型像だけの掲載でなく、少しずつ特徴が異なる様々な種類のリンパ腫が紹介されている点も特記すべき事項だと思う。さらに、正常細胞の細胞診写真が各項目の最初に載せられている点も評価に値する。目前の細胞をなぜ異常細胞と認識しなければならないのか? 私自身が細胞診を学び始めた時に最も強く疑問に感じたことである。異常細胞を異常細胞と認識するためには、まずは正常細胞をしっかり認識することから始めるべきである。絵合わせ的なパターン認識で自己の診断能力に限界を感じている読者は、正常組織の微細構造や細胞レベルでの病態生理学の習熟を目指せば、ひと皮もふた皮もむけた見方ができるようになるかもしれない。
本書は読者を選ばない優れた参考書であると思うが、特に犬と猫を診療の主幹とする小動物臨床医に是非お薦めしたい1冊である。今まで顕微鏡から遠ざかっていた臨床医も、染色液を新調し、顕微鏡を磨き、座り心地のよい椅子を用意してみよう。そして、外来の往来しない落ち着いた時間に、本書を片手にミクロの謎解きに挑戦するのも悪くない。
「獣医畜産新報」2004年7月号掲載
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2003年9月発行、B5判398頁、定価9,450円(消費税含む)
日本臨床獣医学フォーラム代表、赤坂動物病院医療ディレクター 石田卓夫
獣医学教育で使用されていた教科書は、昔はA4版ハードカバーで比較的薄いものであったが、最近刊行されている教科書はB5版でやや厚みがあり、表紙にもカラーが使用してあって、まずもって教科書嫌いの者にも手にとって読んでみようとさせるものである。それで手にとってみれば、なんと海外の教科書にも負けない内容がぎっしりと書かれているではないか。と、いかにも読者の興味をそそるように、この世界の進歩にうといおじさん風に書き出してみたが、実はこの教科書だけでなく、最近の学部の教科書は進歩しているのである。そして、更新のサイクルが早くなっている。この9月に第2版として刊行された『獣 医微生物学』は、第1版の発行が1995年であり、その後の7年ですべてを書き換えるような更新が行われている。
内容は、細菌学、免疫学、ウイルス学、真菌学、原虫学、臨床微生物学からなるが、細菌学など古くから確立されていた分野の中にも遺伝子に関する記述が増えていることに気づく。そして、免疫学とウイルス学の占める割合が圧倒的に増えているのが明らかである。免疫に関しては、これだけ読んで理解しておけば、最新の免疫学はすべて頭に入る(はずの)内容が書かれている。したがって、現代の免疫学に関する総括的な読み物をお探しの方には非常によいものとなるだろう。また、ウイルス学に関しては、刻々と変わるウイルスの分類の最新版が反映されており、全く知らないウイルス名をみつけて読み進むと、あのウイルスが今はこう呼ばれているのかとわかったりする。編集作業中に新しく発見されたSARSウイルスについても、その存在が書き加えられている。ウイルスの分類およびゲノム構造については遺伝子解析の結果が詳細に書かれているので、最新の研究成果が反映されている。最終章に今回から新しく加えられた「臨床微生物学」なる章があるが、これにかなりのページが割かれていることからも、獣医学の中で微生物学が占める位置というものをしっかりとらえた、編集者諸氏の見識がうかがわれる。
したがって、今回の第2版は、臨床医が1人1冊手元に持っておかなければならない本の1冊になるだろう。微生物学を昔に習った人も、最近の卒業生でも第1版で習っていたら、研究の世界でのめざましい進歩に追いつくために、この1冊を教養として読んでおかなければならない。
「獣医畜産新報」2004年1月号掲載
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2003年5月発行、A4判272頁、定価12,600円(消費税含む)
麻布大学獣医学部附属病院小動物部門長 小方宗次
来院した動物の診察はどの時点から始めるであろうか。私は、問診に至るまでの段階がかなり大切と思っている。駐車場から病院の入り口に到達するまで、待合室で待つ間、そして診察室に入室するまでである。この間、診察を控えて動物、飼い主ともにわずかな緊張があることを考慮しても、どこかにありのままの症状を表現しているものである。問診の時に役立つ飼い主の性格も垣間見ることもできる。しかしながら、その間にみせた症状のほとんどは診察室に入った途端、ふっと消えてしまう。診察台に上がってしまうとなおさらである。
だが、大抵の病院は多忙であって待合室の様子をノンビリと眺める悠長さはない筈。よって診断作業は診察室に入ってからのことになる。緊張によって隠された症状を問診によって見出し探るのだから診察は難しい。問診を取りながら、動物の仕草を目で追い、隠れた症状を想定しカルテに記載する。一方では順次、鑑別名を脳裏に浮かべて行く作業を行わなくてはならない。鑑別名の列挙には成書、文献の検索、学会・研究会の参加、あるいは数多くの症例経験が要求される。そして、インフォームド・コンセントを考慮しつつ、予想される診断名、治療法、予後などを飼い主に説明することになる。
この過程で参考となるのが本書『フローチャートによる小動物疾患の診断』である。序文にあるとおり“一つの問題だけ”で来院する動物はほとんどいないといってよい。つまりひとつの症例からいくつかの鑑別名が導き出されるのが普通である。その鑑別診断に本書が役立つ。本書の目次には一般の症状から、臓器系全般にわたって多く見られる症状が網羅されている。診断の道筋がチャートによって示されている。
本書は横長の形をしているが、これによってチャート部分は大きく分かりやすくなっている。開いて右頁にチャートが、左頁に解説が記されている。これによってチャートだけでは表せない部分が補われている。日常よくみられる症状、例えば発熱、高体温症などでは、チャート図は2頁にわたっており、解説も懇切丁寧となっている。
多少気になるのは、活字がやや細かいことである。なるべく多くの情報を記載するためであろう。だからといって読みにくさはない。それはやはり翻訳者の武部先生の文章力によるためであろう。武部先生は、いくつもの翻訳を手がけておられるがその全てには誤りがなく、こなされた日本語となっている。きちんとした仕事をされる先生の性格が文章に表れている。本書は学生や臨床医向けに書かれたようだが、診察に携わる全ての人にとって有益なものと考える。私も診察に携帯し、診察の合間に頁を捲り、学生にチャートを見せ大いに重宝している。
「獣医畜産新報」2003年8月号掲載
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2003年5月発行、A4判376頁、定価16,800円(消費税含む)
東京大学名誉教授 唐木英明
米国の医学部から薬理学講座が消えている。その理由の一つは医師にとって必要な知識は「臨床薬理学」あるいは「薬物治療学」であって、基礎ばかりやっている「薬理学」は不要、というものである。薬理学は薬物開発にも役に立つ(と思っている人もいる)。しかし、これも実績から見るとはなはだ心もとない。そんなこともあってか、製薬企業研究所からも「薬理」の看板が次々消えている。
薬理学は、「薬の作用を知る」ためにあるが、その結果を臨床にも創薬にも利用できる。しかし、実際には薬理学は臨床や創薬に本気でかかわってはこなかった。獣医領域でも臨床に役に立つ薬の教科書がほしいという声が高かったが、そんな本はほとんどなかった。そんな状況の被害者は、国家試験のために薬理学を勉強するけれど、薬理学が獣医臨床のためになるとは考えたこともない学生たちであり、社会に出た獣医師である。
この本は、臨床を考えずに薬理学を教えていた尾崎助教授と、薬理学を考えずに薬物治療をしていた西村助教授が、そのような過去を深く反省し、仲が悪い基礎と臨床の壁を越えて、協力をして書き上げた、わが国で最初の「臨床に役に立つ薬理の本」である。臨床で実際に使う薬を中心にして、なぜその薬が効くのかについての薬理学的な解説と、どんな病気にどんな使いかたをするのかについて薬物治療学の解説を融合させて、分かりやすく、しかも役に立つ書き方を試みている。臨床家と臨床を志す学生には必携の1冊である。
「獣医畜産新報」2003年7月号掲載
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2002年5月発行、A4判284頁、定価5,040円(消費税含む)
大阪府立大学名誉教授 森 純一
北海道大学名誉教授 金川弘司近年、獣医繁殖学は基礎および境界領域研究分野の進展と相まって素晴らしい発展を続けている。ことに、動物の生命活動の基本的設計図であるゲノムのほぼ全容が20世紀末に明らかにされ、さらにこの設計図を具体化する蛋白質あるいはその他の化学的メディエーターの機能や重要性が明らかにされつつあり、再生医療をはじめ新しい技術開発に対して精力的な研究が続けられている。また、胚移植、胚や遺伝子の操作など繁殖工学の研究分野での進展も著しい。
獣医繁殖学分野の診療については、超音波検査技術の開発・普及やホルモン測定法の簡易化、繁殖障害治療に対する直腸検査法の改善、ボディコンディションスコアなど栄養学的視点の導入と周産期異常に対する対応、染色体・DNA検査など広範な分野での進展が著しい。
これらの研究および診療分野の進展は、近年向上の著しい写真やビデオなどの映像媒体、さらに情報通信機器の改善や図書館機能の向上などによって、教育に反映されている。しかし、獣医繁殖学実習に関しては、材料入手の難易度、地域性や教員の専門性などから、大学間のバラツキが大きくなっており、獣医繁殖学実習教育上の隘路となっている。これらの問題点を克服するために、今般実習教科書として、獣医繁殖学教育協議会の編集による『獣医繁殖学マニュアル』が上梓された。本書は先般改訂された『獣医繁殖学 第2版』(森、金川、浜名 編)の姉妹書として企画されたもので、獣医繁殖学実習に対する基本的事項はもとより、実験室内での器材による実習、コンパニオンアニマルをはじめ大・中動物を用いての実習、学外における実習、ことに農場、農家での産業動物の実習など広範に及んでいる。その中には、動物実習に対する心構え、動物倫理の問題、実習器機取り扱い上の注意事項、事故防止、防疫上の問題点、カルテの書き方など多岐にわたっている。さらに、動物種は牛、馬、豚、犬および猫と広範に及び、それぞれの動物種に特有な内容が記述されている。
本書は前述のように、『獣医繁殖学 第2版』の姉妹書として企画、上梓された実習書で、内容的には相互に補完するところが大きい。また、獣医繁殖学教育協議会とは、全国16大学の獣医繁殖学教室教員で構成されており、全教員の総力で作成されている。したがって、内容が豊富で、記述が正確であるとともに、それらが簡潔に纏められているのが特徴である。
本書は、獣医学科学生の実習時に有用なだけではなしに、卒業後の獣医師にも必須な実用的内容になっているので、卒後教育に活用されることをお薦めする。さらに、臨床現場ですぐ利用できるマニュアルとしての特徴を備えており、臨床現場でご活躍の諸賢も座右に備えて利用してほしい。また、巻末付録として繁殖学関連の各種データのほか、家畜改良増殖法、獣医畜産六法抜粋など、身近にかかわりの深い繁殖学関連の法律も掲載されており、繁殖学実習の上で最も有効に活用できるマニュアルである。
「獣医畜産新報」2002年9月号掲載
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日本野生動物医学会 大泰司紀之、野生生物学会 丸山直樹・渡邊邦夫 監修
鈴木正嗣 編訳
『野生動物の研究と管理技術』2001年11月発行、A4判変形926頁、定価21,000円(消費税含む)
酪農学園大学助教授 浅川満彦本書は、米国における野生動物と生息環境の研究・保護管理方法について包括的に解説した本で、今回、日本で野生動物の保全を中心的テーマにする日本野生動物医学会あるいは野生生物保護学会に所属する専門家32名により訳出された。研究者のみならず関連行政機関にも有用な実用書としてばかりではなく、調査上の心得や動物福祉など「技術以前の問題」にも言及され、データ解析や統計処理の基礎に関する記載もあり、関連学部・研究科生の教科書・参考書としても有効であろう。また、日本でも科学的な野生動物の保護管理が求められている昨今、この書籍が重要な資料の一つになることは確実である。よって、色々なところで、本書書評は掲載されるであろうが、ここでは、主に獣医学的な側面から本書を眺めたい。
本書は28の章で構成されるが、特に既存の獣医学に密接に関連する部分、すなわち、当該学部の学生が、専門科目をこなした後、無理無く理解できうるのは次の章である。第1章「研究と実験の設計」、第4章「野外研究における野生動物の適切なケアと利用のためのガイドライン」、第5章「野生動物の捕獲と取り扱い」、第6章「大型獣の化学的不動化」、第8章「性判別と齢査定」、第11章「野生動物研究の生理学的手法」、第12章「野生動物の栄養学的分析手法」および第13章「野生動物の死因の評価」(以上を「第1群」と称する)。いずれも、野生動物ばかりではなく、動物園動物やエキゾチックペット動物を扱う(あるいは、扱うであろう)獣医師や学生も、必ず読まなければならない内容であろう。ただし、若干の脊椎動物の分類(学)や生態(学)の基礎的知識、鳥類学の初歩、飼料学などの事前学習が必要である(各獣医大学低学年レベルの野生動物(医)学教育が展開されているので、問題は無かろうが)。
読者に、野外調査や野生動物医学実習の経験、自然史に対する強い興味などが備わっておれば、第7章「野生動物の標識方法」、第14章「水中・陸上の生息地における無脊椎動物の採集」、第15章「ラジオテレメトリー」、第17章「狩猟管理」、第18章「野生動物被害の加害種の判別と防除」、第19章「都市野生動物の管理」、第20章「絶滅の危機に瀕した種の回復と管理」、第22章「植生のサンプリングと計測」、第23章「生息地の評価法」、第24章「生態学的影響評価」、第25章「野生生物のための湿地管理」、第26章「野生動物のための農地管理」、第27章「野生動物のための牧野管理」および第28章「野生動物のための森林管理」(以上を「第2群」と称する)なども十分理解可能であろう。もちろん、今、野生動物を材料に卒業論文を書いている学生諸君にとっては、極めて有益かつ重要な情報源であることは明らかである。当然ながら、国・地方自治体の保健所や環境関連のセクションなどに勤務される獣医師にとっても、実際的な重要項目が記載されており、一度は目を通される方が良い。
残った章(「第3群」と称する)、すなわち、第2章「データの分析」、第9章「野生動物個体群の生息数の推定」、第10章「脊椎動物による陸上の生息地と食物の利用の測定」および第16章「個体群解析」の理解には、中程度の統計学の知識が前提条件ではあるが、獣医学をバックグラウンドで野生動物の保護管理の職に就く(あるいは、就こうこうとしている)獣医師や関連テーマの博士論文作成中の大学院生などは、これらを、まず、一読すべきであろう。第3章「野生生物の管理と研究における小型コンピュータの利用」と第21章「地理情報システム(GIS)」は、原著者が記したように日進月歩の分野であり、それぞれの運用にあっては、個別の最新書にあたるべきであろう。両章では、極めて基礎的かつ概念的な事項が扱われており、これら分野の入門編としての役割を果たしている。
この機会にわが国の獣医大学への要望をしたい。もし、いまだに第1および2群を理解できうるような基礎的な項目が、野生動物医学の低学年レベル向け教育で扱われていないのなら、大至急、用意をすべきである。これは、昨今議論に上る「獣医学教育改革」以前のレベルである。第2(一部)および3群については、これらに密接に関係する個体群動態学に密接に関連した統計学などを選択科目とともに、選択科目として独自に開講するか、拠点大学などで開講して他大学受講制度などにより、獣医学部の上級者かマスターレベルで習得する機会をご用意いただきたい。
若干の注文をしたい。この本は基本的に米国の事例を扱っているため、法律や動物などがは我々日本人には馴染みが薄い。したがって、日本における関連法規の解説や訳者注などは適宜必要であろう(本訳書には一部の章を除き、訳者の注は無い)。また、巻末付表で、本書に登場した生物名が一覧表になっているが、原書と同じように英名が最初に掲載されている。しかし、和名を最初にして五十音配列などにして、学名、英名(できれば科名も)を掲載いただくととても助かる。
ところで、私は、この翻訳本の編集会議を兼ねた輪読会に参加した。時は1996年1月19日から21日、場所は北海道苫小牧演習林宿舎である〔このオリジナルは発行までに7年を要したとのこと。その翻訳本である本書も刊行までにほぼ同じ期間を要している点(翻訳の途中の1996年にオリジナルが改訂され、本書もそれに合わせて最新版の翻訳に切り替えられている)は、いかにこの分野の書籍発行が難しかったかが理解できる。最近の獣医大学や獣医師会などの野生動物医学に対する理解の高まりは、そのようなマイナス要因は一掃されていると願いたいが〕。当時、私は、その年の4月から開始予定の「野生動物学」開講に向け、苦悶していた時期で、それを気遣ってか、その輪読会に部外者の私を編訳者の鈴木正嗣氏が誘って下さった。訳者のほとんどの方が集合して、激しく討論をした。その時配布されたメモや参考資料、粗原稿などを引っ張り出して、分厚い本になったものと比較して眺めていると、6年近くたっているにもかかわらず、あの熱気が伝わってきた。
実際、英国野生動物医学の研究留学帰国直後、約3週間をかけてこの本を読んだ。向こうで日本の野生動物医学のレベルがいかに低いか実感したものであったが、本書発行により、一気に追いつくことになろう。とても嬉しい。鈴木氏は、「これからは日本版の『野生動物の研究と管理技術』も必要だ」と語っておられたが、私としても全く同感であり、その刊行に期待したい。
「獣医畜産新報」2002年2月号掲載
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2001年発行、B5判282頁、定価12,600円(消費税含む)
日本獣医病理学会評議員・日本獣医病理学専門家協会会員 石田卓夫本書は獣医学学部教育における病理学総論の教科書である。いつの時代にも病理総論の教科書は存在したが、家畜病理学から獣医病理学へと学問体系自体が変わり、そしてさらに多くの動物種と最新の知見を盛り込んで本書の第1版が新しく出版されたのが意外にも最近の1994年である。その後7年の年月を経て、世界にも誇れる内容の第2版がこのほど完成した。本書は一般の臨床医にも勧められる内容であるため、ここに紹介したい。
一般の臨床医がどのような目的で病理学の教科書を、しかも総論の教科書を読むのかといえば、それは獣医師としての一般教養である。病理学とは、病気の病理発生を研究する学問であるし、診断のためのツールでもある。そして、医学関係者が正確なコミニケーションをとるための共通の言語でもある。
まずもって、病理診断を読むための基礎知識として、病理総論は勉強しておく必要がある。これには、細胞や組織の基本構造、そして傷害や死の種類をまず理解しておく必要がある。たとえば、肥大とは何か、異形成とは何か、アポトーシスとは何か、梗塞とは何か、などの基礎知識である。そして、炎症の種類、腫瘍の種類、奇形の種類なども知っておく必要がある。ここまでの知識は、おそらく大学時代の教育で一通り習っていると思われるので復習になるが、現代の教科書では古い記述よりも一層明確に書かれているので、非常にわかりやすいだろう。また、最近の病理診断では、免疫組織化学的手法を利用することも多いが、それらの理論的背景を理解しておくことも必要である。そして将来的な診断法としてPCRやハイブリダイゼーションなどの遺伝子手技が導入される日も近いので、これらについて理解しておくのもよいだろう。
さらに、この20〜30年に急速に進歩した分野に関する記述は、おそらく大学時代には習っていないことばかりであるが、より高度な本を読むためにも、あるいは医師と意見交換をする際にも、当然必要となる知識である。免疫病理学、サイトカインネットワーク、腫瘍免疫、アレルギー、炎症のメディエーター、癌遺伝子、細胞レベル・分子レベルの傷害などが新しい。学生向けに書かれた、当然入門的な記述であるが、これをマスターしておかないと先へ進めない。また新しい病理発生を理解するためには、どうしても必要な知識である。
このように、本書には、古典的な病理学の概念から最新の医学知識まで、必読の内容が凝集されている。病理学的な理解と裏付けがある臨床医学の実践のためにも、すべての臨床医に読んでいただきたい1冊である。
「獣医畜産新報」2001年7月号掲載
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2000年発行、B5判760頁、定価17,850円(消費税含む)
東京大学名誉教授 浦川紀元Cunninghamの『獣医生理学』の第2版
初版は1992年に出版され、1994年に日本語に翻訳発行された。第2版は5年を経て、1997年に出版され、2000年に翻訳発行された。初版についてはJVM(Vol.49 No.7 591頁)に書評を書き、その内容を紹介した。第2版の内容も骨格においてほとんど変わらず、その書評によって御理解いただきたい。ここでは初版と第2版がどう違うかをとり上げる。装丁についてはデザインが全く変わり、図が入り明るく楽しいものとなっている。内容は初版の本文653頁が第2版で715頁となり、約60頁増加している。この数字がまず内容の記載が改訂され充実したことを示している。
具体的に改訂の一部分を述べてみよう。「V 心血管系生理学」の変更が一番大きい。「17 心臓血管機能の概説」は初版では第1項は正常な心臓血管系の知識を持つことの意義を記述しているが、第2版ではこれを3項に分け、第2項で心臓血管系の機能的障害は原発性より二次的なものによって多くの場合起こされることを記し、第3項でこの系で運搬される物質を記述し、初版の第1項を理解しやすく整理し、かつ充実させている。第5項の拡散と総体流の説明には新たに図が加えられた。また第11項に血液の細胞成分、第12項に血液中の酸素とヘモグロビンについての記述が加わっている。全体で初版の10頁が第2版で16頁となった。
「18 心臓の電気的活動」では第2版の第3項で心臓の機能的合胞体が骨格筋と異なることを強調している。初版の第3項では心筋の活動電位とイオン透過性と関連性を述べているが、第2版では第5〜9項にわたって詳しく説明している。また初版の第5項の交感神経と副交感神経の影響を第2版では第11〜14項に分けて詳述している。初版の17頁が24頁に増えている。
「W 消化生理学・代謝」の「27 胃腸管の運動」では第19項に鳥類の消化管の記載が2頁加えられ、「4種の鳥類における消化管の比較解剖学」の図が挿入されている。
「X 内分泌系」の32章、33章は初版では、Dr.G.H.Stabenfeldtが1人で執筆していたが、第2版ではDr.D.Grecoが加わった。また「Y 繁殖・泌乳」の34〜38章は初版ではDr.G.H.Stabenfeldtが執筆し、第2版ではDr.A.P.Davidsonが加わったが、両者とも内容は余り変わっておらず、新たな執筆者が加わった理由が理解できない。また新たに「39 雄の生殖生理学」が加えられ、Dr.S.R.Brinskoが執筆し、翻訳は西原眞杉氏が担当している。
最も大きく訂正されたのは、先述の循環系の17章と18章であるが、「Z 腎臓生理学」の「42 水分平衡」「43 酸-塩基平衡」にも相当の改訂が見られる。第2版全体に内容を新たにし、図を解りやすく書き換えた努力が見られる。本書の大きな特徴である「臨床との関連」と「各章の練習問題」は二三の字句の訂正を除いては初版と全く同じである。
最後に、このような膨大な図書に対し、わずか数年の間に改訂版を出し、その翻訳も直ちに行われたことは、著者の学問的良心のあり方とともに、日米の出版社が経済的負担を顧みず学術図書に対する理解と努力を示された賜物であり、心から敬意を表します。
「獣医畜産新報」2001年2月号掲載
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2000年発行、B5判252頁、定価7,350円(消費税含む)
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 酒井仙吉『動物遺伝学』の刊行によせて
光陰矢の如し。月日の経つのは、まことに早い。遺伝学が誕生したのは、今からわずか100年前である。最近の分子遺伝学の進歩は目覚ましく、1年も経過すると今までの定説に新しい定説が加わり、毎年、教科書の書き換えが必要なほどで、専門家と言えども広い領域を完璧に理解することが難しくなっている。まして、これから遺伝学を学ぼうとする初学者にとって、遺伝学がカバーする領域さえ知ることが難しい現状である。この意味から、今回、文永堂出版から刊行された『動物遺伝学』は、専門家にとっても、初学者にとっても、格好の著作といえる。また、的確な模式図が、理解を一層容易にしている。
全体の構成から見ると、遺伝学の基礎であるメンデル遺伝から始まる点は他の専門書と変わらない。しかし、第T章と第U章を読むと、古典的遺伝学から遺伝子としてのDNAの役割までが述べられており、遺伝学の基礎から最近の分子遺伝学を理解するために必要な事項までを的確に知ることができる。第T章と第U章を理解すれば、最近の知見と言えども理解は容易である。むしろ最近の知見を、第T章と第U章で述べられている立場から理解すべき、というのが本来の姿であろう。『動物遺伝学』の最大の特徴は第V章以降で見られる。まさに編者の編集方針がここに凝集されているようである。
最近マスコミで話題となり、また、我々の暮らしにも影響しようとしている、遺伝病、輸血や臓器移植に係わる問題、我々の病気の原因解明や治療のモデルとなる動物の作出、クローン動物、人の成長ホルモンを作る動物、異常行動など、遺伝学が関係していることを知るものは、むしろ少数なのではないであろうか。
また、進化論が遺伝学で語れるなども同様であろう。全ての遺伝子配列を明らかにしようとしてヒトゲノム計画が進行中であり、あと1〜2年で完了する。その結果、どのような影響を我々の生活に及ぼすのであろうか。すでに一部では、遺伝子診断によって好ましくない影響が現れている。このように見てくると、世の中を見る道具としての遺伝学の持つ重要性が改めて認識されられる。幸いにも執筆者の顔ぶれを見ると、我々の身近かな動物を研究の対象とされ、書かれていることを容易に我々の興味ある事項に置き換えることができる。
もっとも表紙から裏表紙まで1冊全てを読む必要はない。話題になっている事柄を、もう少し深く理解したい、その時、関係する章を読む、という読み方であってもよいのではなかろうか。この意味からも『動物遺伝学』は手元に置いておきたい1冊である。「獣医畜産新報」2000年11月号掲載
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2000年発行、B5判304頁、定価2,730円(消費税含む)
武部獣医科病院院長 武部正美動物愛護週間をはじめ、さまざまな機会に動物の健康相談コーナーが企画され、家庭動物の臨床獣医師として参加を依頼されることは多くの獣医師が経験するところである。筆者も時にこうしたコーナーに駆り出されることがあり、目の前に相談の対象となる動物を見ずして、的確な回答を余儀無くさせられる場合がある。
数年前の相談コーナーで「散歩中の老犬(雌)の頻尿」についての相談を受けた時のことを思い出す。老犬でもあり、決して正常とは言えないまでもよくあることである。適当にお茶を濁す程度の回答に終始せざるを得なかったが、最後に重篤な泌尿器疾患(膀胱腫瘍、結石など)の疑いも考えられることから、近隣の獣医師を訪れるよう付け加えておいた。数日後、偶然にも当相談者が予期せずして筆者の病院に現れた。お互いに「あなたでしたか」という挨拶を交わしたのち診察してみると図らずしも化粧石鹸大の膀胱結石であった。目の前に動物のいないこうした相談コーナーでは、普遍的な回答も必要ながら、時として的確な推察と示唆が要求されることを痛感する経験であった。
この10月1日に、『コンパニオンアニマルQ&A』なる書物が文永堂から出版されている。東京練馬区に所属する開業獣医師を中心に活動されている練馬小動物研究会による新刊書である。本書の「はじめに」を一読してみると、地域の動物医療を向上させ、より良い医療を提供し、獣医師不信を払拭するには、地域の獣医師がお互いに協力しあって社会に向けて活動することが大切であり、この活動の一貫として10数年にわたり地元の一角で相談コーナーを設けて会員が担当してきたという。こうした地道な活動に称賛を送ると同時に本書はこの素晴らしい取組みのなかで生まれてきた紛れもない賜物であろうと言いたい。本書は単に相談内容を想定して回答集を編纂したというのではなく、10年余りにわたって実際の相談のなかで得られたものを十分に吟味した上で、推敲に推敲を重ねて適切な回答を練り上げたものといえよう。
内容は呼吸器、循環器、消化器、泌尿器、歯科、産科、眼科、皮膚科、寄生虫、腫瘍など疾病に関する相談をはじめ、ワクチネーション、しつけ、日常の手入れ、食餌そして動物病院とのつき合い方まで、多岐にわたる内容が186項目取り上げられている。中心は犬・猫であるが、なかにはウサギや小鳥、カメなども含まれている。回答は極めて簡潔明瞭であり普遍的な説明に重きを置いてはいるが、重篤さや危険性が推測される場合には、直接獣医師による診察を促す表現も数多くみられる。また我々が説明を文章で表す場合、やむなく専門用語を使わざるを得ないことがある。こうしたことを補うためにKey Wordの頁を設けて、専門用語に分かりやすい解説が加えられている。ここにも読者に対する優しさが窺える。
美辞麗句に終わるつもりであったが、敢えて一言進言するとすれば、しつけの項目がある。「罰」に近い叱り方など若干首を傾げたくなる表現も散見される。最近では、主に女性の獣医師を中心に正式に行動学を学んだ新進気鋭の臨床家も多くなってきた。再版が重ねられる際には、こうした専門家の意見を参考にすることも必要ではないだろうか。
相談コーナーに参画される獣医師はもとより、多くの飼い主が本書『コンパニオンアニマルQ&A』を利用されることにより、動物がますます幸せになることを祈ってやまない。
「獣医畜産新報」2000年11月号掲載
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朝倉宗一郎、太田充治 監訳
『カラーアトラス 最新 ネコの臨床眼科学』2000年発行、A4判変形219頁、定価26,250円(消費税含む)
安部動物病院院長 安部勝裕本書は、1998年にW.B.Saunders社より発行された『Feline Opthalmology −An Atlas & Text−』が邦訳されたものである。現在までに発行されている獣医眼科学の多くの著書は犬を中心としたものが多く、本書のように猫を対象とした眼科学に関する著書が皆無であったことは事実である。今回、原書が出版されてから短期間で邦訳が出版されたことは、小動物臨床に日頃携わる獣医師、獣医大学の学生ならびに猫の飼い主にとって喜ばしいことである。 本書は15章より構成されている。1章は眼科と付属器官の検査であり、正確な診断に重要な病歴の聴取、各種検査器具の使用方法、基本検査の使用方法とその解釈ならびに正常眼について鮮明な写真を用いて述べられている。また、3章は眼科緊急疾患および眼外傷で、日常遭遇しやすい緊急疾患についてこの章だけは基本的な対処法が端的に述べられており、クイックリファレンス的に使用できるように配慮されている。他の章は解剖学的な分類による眼球の部位別に、解剖学、生理学からはじまり、各疾患について豊富な写真とテキストで構成されており理解しやすい。また、各章別に引用文献が、付属として副読本が紹介され貴重な資料がまとめられている。 本書は豊富なカラー写真とテキストより構成され、猫という魅力的な動物の眼科疾患について述べられている。眼科学に興味ある獣医師のみならず、日常診療に忙しい臨床医にもクイックリファレンスとして明日の診療に役立つものと考える。
「獣医畜産新報」2000年7月号掲載
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2000年発行、A4判変形296頁、定価16,800円(消費税含む)
川口動物医療センター院長 安藤 純本書は、その表紙を一見しただけでは、内容をうまく想像できないかもしれないが、内容を読むにつれてその充実した構成に気がつく。腫瘍学、病理学、臨床病理学、循環器学、眼科学、皮膚科学、外科学など、私たち一般臨床家がよく遭遇する疾患に関する記載だけではなく、行動学、栄養学、公衆衛生学を含めた内容が、現在各分野で活躍されている先生方によって執筆されたオリジナル(米国の先生のオリジナルの翻訳も含まれる)が掲載されている。構成はシンプルで読みやすく、それでいて最新の情報が、図や表、写真とともに上手くまとめられている。また、本邦の臨床現場に即した内容になっており、どれも臨床の現場ですぐに役立つエッセンスに富み、これまで蓄積された知識のupdateだけではなく、不得意分野の知識導入の糸口を容易に提供してくれる。自身の獣医療を客観的に見直し、最新の知見を修得することは獣医療従事者にとって必要不可欠であるが、我々一般臨床を主とする獣医師は、診療科目が多岐にわたり、さらに種々雑多な仕事に追い回されてなかなか十分な時間がとれずに困っている先生方も多いのではないかと思う。本書は、各分野の疾患をコンパクトにまとめてあるため、各人の時間に合わせて一章ずつゆっくりと読みながら内容を修得することが可能であり、気負いなく読破できる専門書である。さらに次号以降、各専門用語に対するインデックスも作成していただき、より使いやすい本にしていただければ幸いである。
「獣医畜産新報」2000年7月号掲載
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内藤善久、浜名克己、元井葭子 編
『生産獣医療における牛の生産病の実際』2000年発行、B5判260頁、定価9,450円(消費税含む)
NOSAI宮城 佐藤 繁生産獣医療は飼養管理や畜産経営上の問題を解決し、疾病の予防と生産性の向上によって畜産農の経営安定を目指したものである。臨床獣医師による個体診療は、畜産業の発展に極めて重要な役割を果たしてきた。今後も個体診療が重要であることに変わりはない。しかし、近年、牛の疾病とその病態極めて複雑なものになるとともに、臨床獣医師に対する畜産農家の要望は個体診療から生産獣医療へと変化している。今や生産獣医療は、我々臨床獣医師が避けて通れない課題になっていると言っても過言ではない。
本書は、第一線で活躍している臨床獣医師が生産獣医療を実践する場合に役立つよう配慮されている。本書の特長は、第一に代謝プロファイルテストの実施法とその解釈法が詳細に記載されていること、第二にミネラル代謝障害、エネルギーやタンパク質代謝障害、ビタミンの代謝障害など古典的な生産病(代謝障害)のほかにも、微量元素の欠乏による障害、ホルモンに起因する障害、ストレスによる障害、繁殖障害、乳房炎、運動器疾患、先天異常、遺伝性疾患など、我が国で問題となっている主要な疾病が網羅されていることである。各疾病の症状、臨床病理検査、診断、治療および予防に関して最新の知見が平易な用語で記載されている。紙面の制約のためか、生産病の予防で重要な牛群全体の飼養管理状況のチェック項目や乾物摂取量の低下など生産性の阻害要因に関する記載がやや少ないのが残念である。本書の第三の特長は、ケースレポートとして乳牛や繁殖和牛に対する代謝プロファイルテストの応用例や代表的な症例が紹介されていることである。これらは極めて実践に即したものと言える。
我が国の生産獣医療は個体診療と密接な関係にあり、その実践は日常の個体診療とともに行うのが現実的である。しかし、生産獣医療を実践する場合、牛の疾病に関する獣医学的な知識だけでは不十分であり、栄養学や行動学など畜産学に関する広範な知識が要求される。また、生産獣医療を定着させるためには、獣医学的な知識に基づいた明確な方法論と情熱にあふれた行動力が要求される。したがって、本書に記載されている最新の知見を応用して、生産獣医療を発展させることは、我々臨床獣医師の責務である。「獣医畜産新報」2000年5月号掲載
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1999年発行、A4判変形650頁、定価31,500円(消費税含む)
戸ヶ崎動物病院院長 諸角元二本書は、1986年にChurchill Livingstone社より発行された『Small Animal Radiology− A Diagnostic Atlas and Text−』の第2版が邦訳されたものである。第1版の原著と見比べてみると、使用されている症例のX線写真はほぼ同じであるにもかかわらず、新たに超音波所見を追加することによって、第1版とは異なる総合画像診断の成書となっている。本書の内容は、サブタイトルに示されているように専門書というよりむしろ教科書的な内容であり、典型的な疾患の各画像所見が網羅されている。
X線および超音波画像の読影には整理された知識と経験が必要であり、ときには拡大鏡を用いてX線画像を観察するほどの注意深さも必要である。しかし、このように詳細に画像を評価したにもかかわらず、開腹時あるいは剖検時に、画像に描出されていた異常所見を読み切れていなかったことに気付くこともしばしば経験される。その異常所見が誰しも理解できないものであれば納得できるが、成書に記載されているようなことであれば、おのれの不勉強に赤面することとなる。獣医学における画像診断法がいかに進歩しようとも、臨床現場での画像診断の基本はX線および超音波であり、これらの画像診断の重要性は今後も不変である。それ故、日々の診療のあい間に、多くの勤務医さらに院長先生方にも本書を活用されていただければ幸いである。
2000年8月には、日本においてInternational Veterinary Radiology Associationの学会が開催され、Suter,P.、Morgan,J.P.、Kealy,J.K.ら著名な先達が来日される予定になっている。この時期、実にタイムリーに本書が発刊されたことは喜ばしい限りであり、我々もいま一度画像診断学の基本を整理し、さらに発展していこうと考えている。「獣医畜産新報」2000年2月号掲載
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1999年発行、B5判264頁、定価7,350円(消費税含む)
帯広畜産大学教授 山田純三今、分子生物学や遺伝子工学が花形ではあるが、発生学の重要性はさらに増してきている。なぜならば、ノックアウトマウスでもジーンターゲッティングでも、発生のどのステイジでどの様な変化が起こっているかを正確に理解することが大切であり、そのためには発生学の基礎をしっかり理解することが必要である。
我々のような獣医学や畜産学の教育にかかわっている者にとっては、発生学を如何に教えるかを真剣に考えなければならない。発生学の重要性が増しているにもかかわらず、残念なことに、わが国では発生学の教育・研究を主目的とした講座は獣医学関係大学にはないし、発生学を専門としている教官もいない。成り行きで解剖学の教官が個人的な努力で教えているのが現状であり、私もその1人である。この様な状況であるので、発生学を教える時、または学ぶ時には教科書の選択が非常に重要になる。
我々の大先輩である江口保暢先生は、1979年に『家畜発生学』を出され、1985年には訂正と図版を追加され『新版家畜発生学』とし出版され、さらには1995年に『動物発生学』と改名されて出版された。1995年の時は名前が変わっただけで、内容の大きな改訂は残念ながらなされなかった。しかし、今回の改訂第2版は、装丁も魅力的になり、第1章の序説を全面的に改訂され、発生学におけるバイオテクノロジーの概略を解説されるとともに、発生学を学ぶことの意義を分かりやすく説かれている。さらに、新しい図を12枚ほど追加または入れ替えされ、相当数の図版をより理解しやすいように改善されている。価格の制限のためか、総頁数は10頁を増やしただけに留まっているが、参考文献も約1頁分追加されている。
私が強調したい点は、中で用いられている専門用語が、我々の日本獣医解剖学会(獣医発生学日本語用語委員会)で出している獣医発生学用語に基づいた用語に統一されていることである。この用語は国際獣医発生学用語委員会(International Committee on Veterinary Embryology Nomenclature)で決定されたラテン語の用語を日本語にしたものであり、解剖学用語や組織学用語と同じ性格を持ち、学会発表をするときや卒業論文などを書くときに用いられる、いわゆる専門共通語であるので、このことはこれから発生学を学ぼうとする人たちには非常に重要なことであろう。
一つ残念なことは奇形に付いての章が無いことである。次回の改訂では奇形についての章が追加されることを期待したい。
この改訂版は、獣医学や畜産学を学ぶ方々だけでなく、動物学を学ぶ方々にも発生学の基礎を学ぶ方にも推薦できる本であることは間違いない。故に、私は本書を獣医学科や畜産系の学科を含む全1年生対象の動物発生学の教科書として活用させていただいている。「獣医畜産新報」2000年2月号掲載
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1998年発行、B5判1,296頁、定価33,600円(消費税含む)
武部獣医科病院院長 武部正美
その国で発刊されている辞典を幾つか見れば、その国の文化水準が分かるといわれている。すなわち一国の獣医学的水準というのは、その国で出版された獣医学的辞典によって概ね推測できるということになる。
1988年に英国で発刊され好評を博してきた辞典『Bailliere's Comprehensive Veterinary Dictionary』が、わが国獣医界における一流の研究者達によって、この度『ブラッド獣医学大辞典』として完全翻訳され文永堂出版から発行された。本辞典は本邦獣医学の水準を世に示すと同時にさらに高める役割を果たすものといえる。
近年の獣医学の進歩は目覚ましく、ますます専門化され細分化され精緻化される傾向にある。特に免疫学や遺伝学などはうっかりしていると、あっという間に置き去りにされてしまう分野でもある。一方では魚病学をはじめ動物行動学や人と動物の関係学あるいはエキゾチック・アニマル学といった分野も獣医学のなかに参入してきた。常にアンテナを広げ情報を収集しておかないと知らぬ間に置いてきぼりを食らう時代にある。ところが常に最新の情報を得ようとすると、残念ながらそのほとんどは英文化された情報という場合が多い。したがって、正確に最新情報を得るためには、幅広い領域を網羅する獣医学英和辞典なるものが不可欠となる。本辞典はまさにこうした要求を満たしてくれるものといえる。 本辞典の素晴らしさには四つの点が挙げられる。第1は用語に対し訳語だけでなく、極めて簡潔明瞭にその定義や説明が記されている点である。多くの医学あるいは獣医学英和辞典では、例えばcomedoという用語を引いてもコメドあるいは面皰としか記されていないことが多い。furuncle・セツ(やまいだれに節:漢字の登録がないためこのインターネット上ではカタカナで記載しています)にしても然りである。仕方なく皮膚科学の成書を紐解く必要に迫られる。第2は獣医学に関連するかなり幅広い動物種や植物種が詳しく解説されている点にある。また心理学用語や行動学用語など新しく獣医学に参入しつつある用語についても、網羅されている。第3は付録として加えられている付表である。検査基準値やウイルス分類などの付表は勿論のこと、なかでも解剖学(動脈、静脈、骨、靱帯、筋、神経に分けた)用語に到っては、親切極まる配慮がなされている。今までのように訳語を知ったのちに解剖学の成書をとり出して分布や起始部、終止部などの解説を読むといった手間が省けることになる。第4は翻訳に携わった監修者と編集委員による着想であろうと思われるが、巻末の索引欄である。獣医学和英辞典としての効用を意図されたことに敬意を表したい。ますますもって、本辞典1冊で全てことが済むということになる。ただ、あえて贅沢をいわせていただくとすれば、発音記号の表示を加えて欲しかった。正しい発音を頭に入れておくことは、国際交流の場で極めて重要となる。
獣医学に関与する多くの方々が、本辞典を座右の書として活用されることを願うと同時に、多忙ななか訳出に携わられた一流の研究者達に心から感謝と敬意を表する次第である。「獣医畜産新報」1999年2月号掲載
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1998年発行、B5判518頁、定価12,600円(消費税含む)
岩手大学名誉教授、日本獣医病理学専門家協会(JCVP)会長 大島寛一
獣医病理学の教育に欠かせない教科書が15年ぶりに新しく出版された。表紙は今までにあまり見られなかった爽やかな彩りが工夫され、学生に本書を手に取る喜びを与えそうだ。内容からみて、価格も低く押さえられているように思われる。本文の504頁も適切である。編集者の善意による発想と思われるが、獣医病理学会の編集ということも異色である。「獣医」を敢えて「動物」とされたことにこだわりを持つ人もあろうが、すでに文永堂出版から出版されている動物病理学総論の姉妹編であることによるものであろう。執筆者は今日第一線で活躍される44名のそれぞれの分野の専門家が当たられ、新しい知見が網羅されている。微生物などの学名や用語がかなり頻繁に変遷する今日、編集者が用語の統一に配慮された跡が窺える。
内容は器官別に配置され12章からなっている。乳腺が雌性生殖器でなく外皮の章にまとめられているが、これは解剖学会の取り扱いに準じたものと思われる。それぞれの臓器病理学の記述に先立ち、若干の紙面を割いて簡単な解剖・生理学的な説明を加え、理解を容易にする工夫もある。書名からも分かるように、対象はいわゆる家畜に限らず、鶏や鳥類をはじめ広く実験動物にまで及んでいる。病理学は日新月歩の新しい分野が開拓され、知見が拡充されているが、基本が形態にあることから、視覚による理解が不可欠である。本書においてはカラー写真版を含め400に近い豊富な図が配置され、理解を助けている。さらに大きな特色として、40頁の解説が各章に挿入され、病変が全身にみられるような主要疾病について記載されている。これは病理学のバイブルとして知られるJones & Huntの『Veterinary Pathology』にみられる原因別疾病の記載が、日本では、病理学の教科書として量的に編集することが困難である点を、少しでも補完しようとする意欲的な取り組みと思われ、これが新しく獣医病理学を学ぼうとする人達の理解を助けることは間違いない。のみならず、病理学を取り巻く学際領域の専門家に理解を求める助けとなることは間違いないであろう。評者からすれば、今少し項目を多くしても良かったのではないかと思われるが、これは編集上の都合を重々承知した上での勝手な要望であり、改販時に期待したい。
何れにしても、これから病理学を学ぼうとする学生の良き伴侶となる好著であることは間違いないし、病理学を専門とする研究者にとっても座右の書となり、さらに様々な分野で活躍する獣医師にとっても、手元に置いて折にふれて紐解かれることをお勧めしたい。「獣医畜産新報」1998年10月号掲載
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1998年発行、A4判266頁、定価25,200円(消費税含む)
麻布大学附属動物病院助教授 小方宗次
解剖学書を臨床に役立つように書くには、臨床知識を十分備えた解剖学者が執筆するか、解剖学に造詣のある臨床医が執筆する、あるいは解剖学者と臨床医とが共同で執筆するかのいずれかの方法が取られるであろう。本書は、解剖学者はもちろんのこと、外科医、皮膚科医、麻酔医、放射線医、眼科医、さらに免疫学や寄生虫学分野の人を引き込んだ多彩な執筆陣となっている。執筆者それぞれが猫の臨床に即した局所解剖を解りやすいカラー図によって解説している。Hudsonらの解剖学者は、臨床医と連携をとって柔軟な発想で臨床に向けた編集を進めたと予想する。とかく、基礎学と臨床とに亀裂が生じやすい状況にあるわが国獣医界には実に羨ましいやり方である。
臨床に役立つ解剖学とは、「体の構造と機能の臨床的意義を考慮しながら体表解剖学と局所解剖学を主とし、系統解剖学を従としてclinically oriented humananatomyを学ぶことである」と星野一正教授が著書『臨床に役立つ生体の観察』(医歯薬出版)で述べている。星野教授は元は産婦人科を専門とする臨床医であったが、米国留学中に解剖学者に転じ、帰国後には京都大学の解剖学教授に就任した。この人体解剖学書を私が手にしたのはかれこれ15年ほど前であったが、医学には門外漢でしかも臨床獣医師である私に対し、解剖学への好奇心を今なお煽っている。そのような解剖書が獣医界で出版されることを切望していたが、本書はその期待に十分応える内容を具備している。全般的に体表から視診、触診、聴診やX線などで観察できる身体内の構造を網羅し、運動時の臓器の変化および隣接器官との相互関係や機能を明快に表現している。表題に臨床獣医師のためのとあるように正に臨床に即しており、本書が診療室や手術室での活用に十分耐え得るものと確信している。また、本書の従来の解剖学書と視点を異にした内容は、解剖学者あるいは学生にも啓蒙的な刺激を与えるであろう。
監訳者の浅利教授は、かつてCornell大学の獣医解剖学教室に留学し獣医解剖学の教育と研究を研鑽された。この教室は『Veterinary Neuroanatomy and ClinicalNeurology』を著したde Lahunta教授やEvans教授が終始臨床を重視した研究や教育を進めていたという。浅利教授は帰国後、その教室の雰囲気を継承するため、本学の動物病院にもしばしば出向き、一つ一つの症例から解剖学に関連したヒントを収集されている。現在、わが国で臨床を最も理解した獣医解剖学者のお一人である。本書の監訳に最も相応しい浅利教授を選ばれた文永堂出版社編集者の慧眼に敬意を表する次第である。「獣医畜産新報」1998年4月号掲載
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今井壮一、神谷正男、平 詔亨、茅根士郎 編
『獣医寄生虫検査マニュアル』1997年発行、B5判320頁、定価7,350円(消費税含む)
帯広畜産大学名誉教授、日本獣医寄生虫研究会会長 鈴木直義
世界の獣医学6年教育科目の中での寄生虫学は極めて重要な位置を占めている。家畜の寄生虫病学、とくにズーノーシス関連における寄生虫病の世界的防疫対策が強く叫ばれている現状にあり、日本も例外ではない。
『獣医寄生虫検査マニュアル』の表題の如く、本書は日本の獣医系大学における主要な寄生虫病の学生教育実習の手引き書として、とくに修得すべき寄生虫病診断のための検査法について簡明に記述されている。
まず、内容は「基礎」と「応用」に大別され、「基礎」には主として日本の獣医寄生虫病学学部教育における重要項目が記述されている。一方、「応用」編では、社会人獣医師が関連領域において寄生虫病診断などに十分対応できる専門的手技が簡潔に記載され、寄生虫学実習参考書として非常によく纏められている。
したがって、本書は、わが国獣医寄生虫学教育実習の手引き書として学生の参考書としての活用のみならず、社会人獣医師の座右におくべき必須専門書として診断技術の向上に役立てていただきたい。「獣医畜産新報」1998年2月号掲載
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1997年発行、A4判変形1,604頁、定価47,250円(消費税含む)
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 佐々木伸雄
本書は、小動物臨床家が日常接する病気のほとんどすべてを網羅するという恐るべき試みをした本である。しかも、通常のマニュアル本のような小型、ポケットサイズといった体裁ではなく、A4判変形サイズで1,579頁もある。
本書は犬、猫の内科・外科疾患に加え、鳥類、フェレット、ハムスターなどを含むexotic petの病気まで、きわめて多数が収録されている。しかも、従来のマニュアル本とは異なり、各疾患の発生要因、病態などのキーポイント、X線写真の読影法まで含めた診断の要点、治療法などがかなり細かく記載されている。少なくとも、通常の診療の中での必要な項目はほぼ満たされているのではないかと思われる。もちろん、本書にはサウンダースの小動物内科書、外科書のような詳細な内容は含まれていない。おそらく、そのダイジェスト版を目指したものであろうと思われる本書の試みは、成功していると評価できる。体裁も非常に見やすく構成されており、診療室に是非備えておきたい1冊である。
一方、本書の各項目の末尾にはさらに詳細な情報を得るため、主として成書が参考文献として挙げられている。読者がまずこのマニュアルを読み、次にさらに細かく調べるための配慮がなされており、その点も便利である。
他方、学生にとっても、本書は小動物疾患を総括的に勉強するのにきわめて役立つのではないだろうか。これだけ多くの病気の主要なポイントを1冊で勉強させることは教官としては本意ではないが、学生の立場からは喜ばれるものと思われる。「獣医畜産新報」1997年12月号掲載
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1997年発行、B5判430頁、定価8,400円(消費税含む)
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 見上 彪
わが国では、獣医学領域での疫学教育の重要性が指摘されて久しい。最近、欧州諸国での牛海綿状脳症の流行、日本を含めた欧米での腸管出血性大腸菌O157の大流行、台湾での豚口蹄疫の流行など、家畜の疾病やそれに起因する、あるいは疑われているズーノーシスが社会問題となり、家畜生産の現場から消費段階での衛生問題が非常に問われている。そして、国内外で家畜の集団防疫とコストパフォーマンス(経済疫学)を中心とした獣医疫学の重要性が特に訴えられている。
本書はフランスのアルフォール国立獣医科大学のDr.Toma,Bらによってまとめられたもので、獣医師が疫学の実践に当たって必要な知識が体系的に記載されている。
まず疫学の基本概念では、記述アプローチと分析アプローチの違いを示し、次いで家畜の伝染性疾患のスクリーニングの検査法とその利用、防疫すべき疾病の疫学的状況を把握するための記述疫学の調査と疫学的サーベイランスについて、そして疫学的サーベイランスのネットワークの構築、病原体の存在場所および伝播態様が説明されている。さらに費用対効果を念頭においた疾病のコストおよび予防に進み、次いで各種の防疫措置、集団防疫の検討と実施、疾病の原因の解明が記され、最後に家畜衛生における評価で締めくくられている。10章からなっているが、各章の始めにはその章の目標が設定してあり、その最後に練習問題で習熟度が分かるという親切な構成となっている。
従来、煩雑な統計処理(もちろん必要なことであるが)にとらわれた疫学書が多かったが、本書は理解しやすく実によくまとめられている。
家畜に防疫業務に携わる先生方にはもちろんのこと、産業動物に携わる臨床獣医師や獣医学を学んでいる学生諸氏には役立つ書である。最後にフランス語の原書を分かりやすく翻訳された杉浦勝明氏の功績に敬意を表したい。「獣医畜産新報」1997年11月号掲載
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1997年発行、B5判288頁、定価8,400円(消費税含む)
タテマツ獣医科Animal Behavior Clinic院長 立松 誠この本はとても素晴らしい本だと思う。私は出版者の社員ではないが、この本はできるだけ多くの人に読んでもらえればよいと思う。私が犬・猫の臨床行動学に興味を持ったのが、今から約20年前である。当時はこの分野に関する情報は、日本ではほとんどなく、ただ行動学、心理学に関する書物を手当たり次第に読み、いかにしたら犬・猫の問題行動の解決に応用できるかと毎日頭を痛めていた。私がこの本の原版(1980年刊)に出会ったのが、今から10数年前の米国留学中のことであり、この時以来、本当に多くの情報を与えてくれた。通常、行動学に関する書物は一般の病気に関する書物とは違い、耳慣れない言葉が多く、私も苦労してきた。
今回、多くの先生方の御苦労で日本語版が出版されたことは、本当にありがたいことである。この本は、出生から成熟および成熟後の猫の様々な行動が、感覚器官、脳を中心とした神経系およびホルモン等の生理機能と関連づけられて詳細に述べられている。また、具体的な猫の様々な動きについても、いろいろな方向から実にわかりやすく述べられているので、読者が猫の動きを理解する上で非常に役に立つ。各種の問題行動につていも、その原因から治療法に至るまでのいくつかの症例を示し、明解な説明が加えられている。これは、臨床家にとってとてもありがたいことである。参考文献の紹介も豊富で、より深く研究しようとするときには、大変役だった。
最後に、もう少したくさんの問題行動の症例と治療法に関する詳細な説明があればよいと思うのは、少々贅沢すぎる望みであろうか。
とにかく、素晴らしい本である。「獣医畜産新報」1997年8月号掲載
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1997年発行、B5判244頁、定価12,600円(消費税含む)
ミュージアムパーク茨城県自然博物館館長 中川志郎
“手にとるようにわかる”という表現があるが、この本を見た第一印象はまさしくそれであった。インコ類、カモ類、ワシタカ類など、20種にわたる鳥類の解剖学的な特徴がまるで精緻なイラストレーションを見るように的確に描出されているのである。
その秘密は、通常のX線写真とともにゼロラジオグラフィー(電子X線)による写真を併用していることにあろう。ゼロラジオグラフィーは、X線写真では撮影できない微細な骨組織はもちろん、軟組織までを余すところなく写し出すからである。
従来、動物園などでも鳥類の外科的疾患は治療が難しいとされてきたが、その理由は鳥類骨構造の特殊性とともに、種類ごとの解剖学的特徴が必ずしも明らかでなかったことによる。
その意味で本書の登場は、鳥類外科診療の基礎学として不可欠な部分をカバーしたものということができよう。紹介されている鳥の種類は必ずしもわが国でポピュラーなものばかりではないが、グループ代表としてみても十分役に立つはずである。臨床獣医師はもちろんのこと、鳥類の体のしくみに関心のある生物学者、教師、研究者にも広く活用してほしい本である。「獣医畜産新報」1997年7月号掲載
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野生動物救護ハンドブック編集委員会 編
『野生動物救護ハンドブック −日本産野生動物の取り扱い−』1996年発行、B5判326頁、定価8,400円(消費税含む)
ミュージアムパーク茨城県自然博物館館長 中川志郎このところ、ボランティア的な野生動物救護活動が盛んになっているが、一方、各地方自治体が行う組織的な取組みも確実に増加している。それは一般の動物愛護思想がかつてない高まりをみせつつある現代世相の反映であり、また、保護を必要とする野生動物が実際に多くなっていることへの対応でもあろう。
事実、動物園の動物相談室への問合わせ内容などをみても、傷病動物や幼鳥、幼獣の育て方などに対するものが著しく増加している。
このように、野生動物に関する関心度が高くなることは大変結構なことであるが、これらに対する対応が適切になされることは、それ以上に重要である。
その意味で、本書は野生動物救護に直接かかわる人は勿論、これらに関係する行政窓口や市民センターなどでも役に立つ内容となっている。現在、わが国で問題となるであろう動物種はほとんど網羅されており、しかも、実際家が分担執筆しているので、内容も行き届いているからだ。
ただ、野生動物救護のような幅広い分野での症例としては、ここに集められているものは、まだごく一部であり、この本を利用しながら読者自身が資料を追加していくことも求められよう。いずれにしても、その端緒となる本書が誕生してくれたことは、日本の野生動物救護にとって一つのエポックとなろう。「獣医畜産新報」1996年7月号掲載
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山村穂積 監訳
『イラストによる小動物整形外科−手術手技とアプローチ−』1995年発行、A4判334頁、定価21,000円(消費税含む)
麻布大学獣医学部外科学第一講座教授 若尾義人本書はAlan J.Lipowitz、Dennis D.Caywood、Charles D.NewtonおよびMartin,E.Finchによる『Small Animal Orthopedics Illustrated −Surgical Approaches and Procedures』の訳書である。
これまで多くの整形外科の訳書が出版されているが、本書の特徴は整形外科の理論は最少限に押さえ、実際の臨床に必要な外科手技を中心に豊富なイラストを用いて説明することを第一としており、極めて実際的な手術書である。本書全体は、左頁を手術ポイントの的確な記述に使用し、右頁を皮膚切開からその手術の重要な手技の操作終了までを詳細なイラストで埋める構成を採っている。左頁の記述に関しても各頁にはコメントが挿入されており、実際のイラスト以外の方法あるいは注意点、または予後について述べられている。イラストは全て丁寧な写実によってしめられており、このイラストは時には実際の写真よりも手技の修得に役立つことはすでに多くの先生方が経験している。また、全体的な構成と文章の平易さから、これから獣医師を目指そうとする多くの学生のための参考書としても大いに役立つものと思われる。著者らが前文で述べているように、本書は全ての外科的処置が網羅されている整形外科書ではなく、実際の臨床における必要な手技について記載していることから考え、学生から臨床家まで幅広く利用できる訳書として推薦できる。
小動物の整形外科の分野は、器具の改良によってかなり高度な手技が可能となってきたが、本書に記載された基礎的手技を会得し、さらにその手技を使用して実際の症例にアプローチする方法を身につけることが、整形外科には極めて重要である。「獣医畜産新報」1995年9月号掲載

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